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第885話

リビングへ降りると、大翔はいつも俺が座る席の隣に座っていた。 城崎に断りを入れて大翔の隣に座り、城崎は俺の前に座った。 「いただきます!」 「へぇ。大翔が夕食そんなに喜ぶなんて珍しい。」 「だって兄さんも作ったんでしょ?」 「え?」 父さんと母さんが否定しようとする前に、大翔は肉じゃがを頬張って舌鼓(したつづみ)を打った。 「わぁ!この肉じゃが美味しい!いつもと味違う!兄さんが作ったんですか?」 「あー…、えっと…。」 「何言ってるんだ、大翔?それは城崎くんが作った肉じゃがだ。綾人は何も作ってないぞ?」 「え……?」 大翔はポロッとお箸を落とす。 まるで大翔だけが魔法にかけられたかのように動かなくなった。 「ほんと美味しいわねぇ。綾人が胃袋を掴まれたっていうのも納得。」 「普段もこういう家庭料理を作るのかい?」 「いや…、正直言うと、普段は洋食が多いんです。イタリアンとかフレンチとか。少し不安だったんですけど、お口に合ってよかったです。」 「そうなの?おしゃれな料理も食べてみたいわね。」 城崎と両親が談笑する中、固まっていた大翔がわなわなと震えだし、バンッと両手で机を叩いた。 「よくない!!!」 「ひ、大翔…?」 みんな目を丸くして大翔を見る。 普段甘えたで、俺がいない時は大人しくてあまり感情を表にしない大翔が、こんなに感情を露骨に出すのはとても珍しい。 次は父さんと母さんが固まっていた。 「父さんも母さんも、なんでこんな奴認めてるんだよ?!僕は絶対認めない!!兄さんの恋人がこんな…、こんなチャラくて軽そうな男なんて絶対認めないんだからな!!」 「ちょ、大翔くん…。俺は軽くもチャラくもない…」 「うるさいんだよ!!うるさいうるさいうるさい!!」 「あ!こら!!大翔!!」 大翔は耳を塞いでリビングから出て行った。 リビングに重い空気が流れる。 「城崎くん、悪いね。普段あんな子じゃないんだが…。」 「いえ、僕の方こそすみません。弟さんが多感な時期に、大好きなお兄さんに男の恋人ができたなんて知ったら混乱しますよね…。」 「大翔もきっと時間が経てば受け入れると思います。あの子は人一倍素直じゃなくて、なかなか変化を受け入れるのが苦手な子ですから…。」 父さんは城崎をフォローしていたが、母さんはなんだかソワソワしていた。 気持ちは分かる。 俺も大翔が心配だから。 父さんの言う通り、大翔は昔から環境の変化に強く影響を受ける傾向にあった。 うちに養子に来たときも、俺が東京に上京することになったときもそう。 一人で部屋にこもって出てこなくなったりだとか、近くの公園で泣いていたりだとか。 「俺ちょっと大翔の様子見てくるよ。」 「うん。お願いね。」 母さんがほっとしたように息を吐いたのを見て、やはり心配していたのだと思った。

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