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第886話

「大翔?入るよ?」 ノックして部屋に入る。 部屋は真っ暗で人の気配がしなかった。 部屋にいないのか…? 「大翔?大翔〜?」 俺の部屋、トイレ、和室も探すが見つからない。 玄関を見に行くと、大翔の靴が見当たらなかった。 慌てて靴を履き、外に出る。 大翔が行きそうなとこ…。 公園?学校?友達の家? ダメだ…。最近の大翔のことなんて全然知らない…。 冷静に考える余裕なんてなくて、何も考えずに田んぼの脇道を走る。 「綾人さん!待って!!」 「…っ!」 グイッと後ろに手を引かれて足を止めた。 振り向くと、城崎が焦った顔で俺の腕を掴んでいた。 「急に出ていくからびっくりした。どうしたんですか?」 「大翔が…っ!大翔がいなくなった…。どうしよう…。」 「とりあえず落ち着いて。ね?もう暗くなってきたし、闇雲に探しても、見つかるものも見つかりませんよ。」 城崎は俺を抱きしめて背中を摩る。 少しだけほっとしたけど、大翔がいなくなった事実は変わらない。 「手分けして探した方が早いって言いたいところなんですけど、こんな危なっかしい綾人さん放って置けない。」 「………」 「一緒に探そう?」 「いいのか…?」 「当たり前じゃん。大翔くんは綾人さんの大切な弟なんだから。それって将来、俺の弟になるってことでしょ?尚更本気で探しますよ。」 「城崎……」 なんか城崎がそう言うなら大丈夫な気がしてきた。 ぎゅっと城崎の手を握ると、どんどん気持ちが落ち着いていく。 「綾人さんと大翔くんが昔よく行ってたところ、いくつか教えてもらってもいいですか?」 「うん。でも昔のことはわかるけど、今のことは分からないんだ…。」 「それでいいんです。綾人さんとの思い出の場所にいる気がするから。」 よく一緒に遊んだ公園、林の中、学校や図書館も探しに回る。 あと親しくしていた近所の人にも声をかけてみる。 「どうしよう…。俺のせいで……」 「俺も綾人さんがいなくなった時、すごく不安だった。怖いですよね。でも大丈夫。俺がついてるから。」 「城崎……」 「他に思い出せるところありますか?」 他…。 他に思い出せるところ………。 「………あ。」 「何か思い出しました?」 「ファミレス…とか…。」 「ファミレス?」 俺が高校生になって多少お小遣いなりで余裕があった時、時々大翔を連れていってあげてた。 家から距離があるから、そんな頻繁には行けなかったけど…。 連れていってあげると、大翔はいつも花が咲いたような笑顔で笑ってたっけ…。 「車で行った方が早いかも。」 「じゃあ一度家に戻りましょうか。俺が運転します。」 「うん。ありがとう。」 急いで家に戻って、父さんに事情を説明して車を借りた。 母さんも着いていくと言ってなかなか聞かなかったが、父さんが説得してくれてなんとか家に残ってくれた。

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