886 / 1069
第886話
「大翔?入るよ?」
ノックして部屋に入る。
部屋は真っ暗で人の気配がしなかった。
部屋にいないのか…?
「大翔?大翔〜?」
俺の部屋、トイレ、和室も探すが見つからない。
玄関を見に行くと、大翔の靴が見当たらなかった。
慌てて靴を履き、外に出る。
大翔が行きそうなとこ…。
公園?学校?友達の家?
ダメだ…。最近の大翔のことなんて全然知らない…。
冷静に考える余裕なんてなくて、何も考えずに田んぼの脇道を走る。
「綾人さん!待って!!」
「…っ!」
グイッと後ろに手を引かれて足を止めた。
振り向くと、城崎が焦った顔で俺の腕を掴んでいた。
「急に出ていくからびっくりした。どうしたんですか?」
「大翔が…っ!大翔がいなくなった…。どうしよう…。」
「とりあえず落ち着いて。ね?もう暗くなってきたし、闇雲に探しても、見つかるものも見つかりませんよ。」
城崎は俺を抱きしめて背中を摩る。
少しだけほっとしたけど、大翔がいなくなった事実は変わらない。
「手分けして探した方が早いって言いたいところなんですけど、こんな危なっかしい綾人さん放って置けない。」
「………」
「一緒に探そう?」
「いいのか…?」
「当たり前じゃん。大翔くんは綾人さんの大切な弟なんだから。それって将来、俺の弟になるってことでしょ?尚更本気で探しますよ。」
「城崎……」
なんか城崎がそう言うなら大丈夫な気がしてきた。
ぎゅっと城崎の手を握ると、どんどん気持ちが落ち着いていく。
「綾人さんと大翔くんが昔よく行ってたところ、いくつか教えてもらってもいいですか?」
「うん。でも昔のことはわかるけど、今のことは分からないんだ…。」
「それでいいんです。綾人さんとの思い出の場所にいる気がするから。」
よく一緒に遊んだ公園、林の中、学校や図書館も探しに回る。
あと親しくしていた近所の人にも声をかけてみる。
「どうしよう…。俺のせいで……」
「俺も綾人さんがいなくなった時、すごく不安だった。怖いですよね。でも大丈夫。俺がついてるから。」
「城崎……」
「他に思い出せるところありますか?」
他…。
他に思い出せるところ………。
「………あ。」
「何か思い出しました?」
「ファミレス…とか…。」
「ファミレス?」
俺が高校生になって多少お小遣いなりで余裕があった時、時々大翔を連れていってあげてた。
家から距離があるから、そんな頻繁には行けなかったけど…。
連れていってあげると、大翔はいつも花が咲いたような笑顔で笑ってたっけ…。
「車で行った方が早いかも。」
「じゃあ一度家に戻りましょうか。俺が運転します。」
「うん。ありがとう。」
急いで家に戻って、父さんに事情を説明して車を借りた。
母さんも着いていくと言ってなかなか聞かなかったが、父さんが説得してくれてなんとか家に残ってくれた。
ともだちにシェアしよう!