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第887話
車で約十分。
昔よく行ったファミレスが見えてきた。
もう他に思いつく場所なんてない。
ここにいなかったらどうすればいい?
「綾人さん、先に降りて中見てきて。すぐ追いかけます。」
「わかった。」
車を降りてファミレスに入る。
店員さんに声をかけられているのも無視して中を探すと、昔よく座っていたボックス席に一人で座る大翔の姿があった。
「大翔!!」
「え…。兄さん…?」
「大翔…っ、心配したんだぞ?!」
ぎゅぅっと抱きしめると、大翔はおろおろしながら俺の背に手を回した。
すぐに見つかって本当に良かった。
「ごめんなさい……。」
「うん。もう勝手にいなくなるなよ?」
反省した様子の大翔を見て、簡単に許してしまう自分は甘すぎるんだろうか?
というか、今回の家出の原因って絶対にその……。
「なぁ、そんなに城崎のこと嫌か?」
「…………」
大翔は急にムスッとした顔になる。
やっぱりそうか…。
どうしたらいいんだろう?
大翔のことももちろん大事だけど、城崎と離れるなんて選択肢、俺には選べない…。
「城崎は軽くないよ。ちゃんと俺のこと大事にしてくれてる。むしろ過剰なくらい愛されてるし…。」
「…………」
「どうしたら認めてくれる?」
大翔の返答が聞きたい。
大翔にも城崎のこと認めてほしい。
「あいつが本当に兄さんに相応しい奴なのか、それがわかるまでは認められない。」
「………ん??」
「兄さんの負担にならないように、日々身を削って家事をしてるの?愛するだけじゃダメでしょ。家賃は?女でもないんだから、まさか兄さんが出してるなんてことないよね?」
「ちょ…、大翔…??」
なんだ?
急に姑みたいに語り出したんだけど。
俺の負担にならないようにって…。
俺は城崎にそんな身を削ってまで世話してもらわなくたっていい。
金だって俺に使いすぎてるから注意してるくらいなのに…。
その条件は飲みたくなくて、どう返事すればいいか迷っていると、向かいの席に人が座った。
「任せてよ、大翔くん。」
「し、城崎っ!」
いつから聞いていたのか、城崎は挑戦的な目で大翔を見つめた。
俺に視線を向け、にこりと微笑む。
「見つかって良かったですね。」
「うん…。」
「で、俺が綾人さんに相応しいかどうかだっけ?」
やっぱりその辺は聞いてたよなぁ…。
城崎を変に刺激すると、やり過ぎるからダメなのに…。
「そうだ!おまえが兄さんに本当に相応しいか、僕が納得するまで認めない!」
「綾人さんに相応しいかどうか、君が確かめてくれるの?」
「あぁ。」
「それは助かるな。俺、綾人さんに見合う男になるために必死に努力してるんだよね。綾人さんってば、評価甘いから、俺もついその評価に満足しそうになってるんだけど…。君ならちゃんと評価してくれそう。」
何か変な流れになってきた。
城崎は今のままでも十分過ぎるくらいなのに、これ以上俺に尽くしたらそれはもう介護になるんだよ…。
頼むからやめてくれ。
「至らないところがあれば教えてね、大翔くん♪」
「随分な自信ですね。じゃあまずは知識から確かめさせてもらいます!」
俺の願いも虚しく、謎のテストが始まってしまった。
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