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第888話
「兄さんのコンプレックスは?」
「めちゃくちゃ可愛い陥没乳首♡」
「コンプレックスを揶揄うのは兄さんに失礼でしょう?!」
「褒めてるんだよ。分かってないなぁ。」
テスト…のような俺のクイズが始まり早1時間…。
いつまで続くんだ…?
結構なボリュームで話してるから恥ずかしくて仕方ない。
田舎だから客はいないとはいえ、店員には筒抜けなわけで…。
「なぁ、もう帰らないか…?」
「「まだです!!!」」
こいつら本当は仲良いだろ…。
息ぴったりじゃねぇか。
「俺からも問題出していい?」
「望むところです!」
「綾人さんがキスしてほしい時にする仕草はなんでしょうか〜?♡」
「「なっ?!!」」
こ、こいつ…、弟になんて質問してんだ?!
キュッと太腿をつねると、城崎は「痛い痛い」と呟きながらもニヤニヤして大翔の反応を窺っていた。
「そ、そんなの僕が知るわけ……」
「あはは。恋人の特権だからね〜。」
「クッ…。答えを教えてください…。」
知りたいのかよ!!
心の中でそうツッコミながら、弟に知られたくはないので城崎の口を塞ぐ。
「ほら。もう帰るぞ。母さんが心配してる。」
「え〜!まだ僕の知らない兄さんのこと知りたい。こいつより兄さんのこと知らないなんて、なんか嫌です!!」
「大翔くんのテストって初心者向けだよね?次は何を試されるのかな?」
「〜〜っ!!ムカつく!兄さん、こいつムカつきます!!」
「城崎も大翔を煽るのやめて。仲良くして。」
「俺は仲良くしたいんですけどね〜。」
二人を宥めながら出口へ向かう。
城崎って人心掌握って言うの?人の心を掴むの上手いよな…。
あんなに頑なに話そうともしなかった大翔が、あんな様子だけど懐き始めてる。
大翔は素直じゃないから、仲良い相手にもあんな感じ。
寧ろ嫌いな相手には話そうとしないから、この短時間でマイナスの印象からここまで話してるのはすごいと思う。
「仲のいいご兄弟なんですね。」
「あはは…。騒いでしまってすみませんでした。」
「いえいえ。他にお客様もいらっしゃいませんでしたし、仲直りできたようで良かったです。」
店員さんに謝って会計を済ませた。
いい人でよかった……。
車に戻ると、二人は車の前でまだ言い合いしていた。
「おまえが運転するのか?」
「そうだよ。ダメ?」
「兄さんの運転の方が安心する!おまえは後ろ座れよ。」
「疲れた綾人さんに運転させるの?嫌な弟だなぁ〜。」
「ぐぅ…」
また虐めてる…。
運転席の前にいる城崎の首根っこを掴み、後部座席に押し入れる。
「俺が運転するから。」
「兄さん…っ!でも疲れてるんじゃ…」
「全然。ほら、大翔は助手席座りな。」
「はいっ!」
大翔は花が咲いたような笑顔で助手席に回り込む。
車に乗り込んで、いそいそとシートベルトを締めた。
後ろに押し込んだ大の大人は不機嫌だけど…。
「なんで俺が後ろなんですか!」
「へへーんっ!兄さんが運転する時はいつも僕が助手席なんです!」
「…んのガキ。」
人心掌握なんて買い被りすぎたか?
ただ相性が良かっただけというか…。
人によっては相性悪いって言いそうなくらい罵り合ってるけど…。
「兄さん、帰ったら一緒にお風呂入りましょうね!」
「はいはい。」
「えぇっ?!綾人さん、俺と入るよね?!」
「やだ。」
「えーっ?!そんなぁ……」
バックミラー越しにガックリと肩を落とす城崎が見えて、思わずクスクス笑ってしまった。
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