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第892話

祖母の家に着き、玄関の引き戸を開ける。 「ばあちゃーん!お邪魔しまーす!」 「お邪魔します。」 中に入って靴を脱いでいると、居間の方から祖母が来た。 俺たちをみて嬉しそうに笑う。 「綾人、いらっしゃい。」 「久しぶり。」 「お祖母様、ご挨拶が遅れてすみません。綾人さんとお付き合いさせていただいております、城崎夏月です。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします。」 城崎はピシッと手を揃えて頭を下げた。 祖母はニコニコして城崎の手を握る。 「あなたが綾人の大好きな人なのね。孫がいつもお世話になってます。」 「い、いえ!僕がお世話になっていて…っ!それと、お正月にもご馳走いただきありがとうございました。」 「あぁ、綾人に渡したお小遣いね?何食べさせてもらったの?」 「お肉を頂きました。とても美味しかったです。」 そんなこともあったな。 三が日明けの記憶がダイエットの方に集中してて、ちょっと忘れてた。 「ふふ。しっかりしてるけど、綾人の幾つ年下なの?」 「6つ離れてます。綾人さんには仕事でもプライベートでも、たくさんお世話になっておりまして…」 「畏まらなくていいのよ。普段の綾人の話、たくさん聞かせてくれる?」 「はいっ!!」 祖母は全てを優しく包み込む包容力のある人だ。 縁側で城崎が買ってきた手土産を食べながら、俺の話で盛り上がり、二人ともとても楽しそう。 自分では照れ臭くて話せないから、俺の話で祖母が喜んでくれるならよかったと思う。 「今日は綾人たちが来るから、ご馳走作って待ってたんだよ。」 「お祖母様、僕も何か一品作らせていただいてもよろしいですか?」 「本当?百合さんにあなたの料理が美味しかったって聞いて、羨ましいなと思ってたの。」 「是非召し上がって頂きたいです!」 城崎はばあちゃんのために真剣に料理を作っていた。 食卓は昼ごはんとは思えないくらいの豪勢な料理がたくさん並び、俺と城崎は胃が小さい祖母の分も食べて、動けないくらいにお腹がいっぱいになった。 昼下がりなのと満腹なのが重なり、うとうとと睡魔が襲ってくる。 「綾人さん、寝る?」 「…寝ない……。」 「寝たら?ほら、おいで。」 城崎は縁側で足を下ろし、膝をぽんぽんと叩く。 吸い込まれるように城崎の太腿に頭を乗せると、あっという間に思考がフリーズする。 「城崎くんのお料理、本当に美味しかったわぁ。」 「お口にあってよかったです。お祖母様のお料理も、全部とっても美味しかったです。」 「ありがとう。綾人の好きな味付けにしたのよ。」 「ふふっ。綾人さんって少し濃いめの味付けが好きですよね。」 「そうなの。将来が心配だわぁ。」 「任せてください。綾人さんの健康は僕が守ります。」 「うふふ。頼もしいわねぇ。」 城崎と祖母の声が心地よく耳を通り抜けていく。 城崎が家族に迎え入れてもらえて、本当に良かった。 不安要素が一つ消え、心がスーッと晴れる。 少し暑くて寝苦しいけど、それ以上に眠気と安心感が勝って、そのまま夢の世界へ(いざな)われた。

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