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第893話
一時間ほどで祖母に起こされ、三人で祖父の墓参りに向かった。
城崎は墓前で祖父にもよく喋っていた。
話の半分以上は惚気話だった気もするけど、祖母は「また話してるわぁ。」と嬉しそうにくすくす笑っていた。
俺が寝ている間に一体何を話していたんだか…。
祖母の家に戻り、祭りに行くことを話すと、箪笥 の奥から浴衣を二つ出してくれた。
「こっちは綾人のね。」
「じいちゃんのお古?」
「違うわよ。小さい時にこれが欲しいって駄々捏ねたの覚えてないの?大人用だから、買うのは大きくなったらねって言ったのに、大きくなったら着るから〜って。」
「そんなことあったっけ?」
「ふふっ。綾人さん超可愛いじゃん。」
全然覚えてない。
でも子どもの頃の俺のセンス、悪くないな。
去年城崎が着てたのに似てるグレーの浴衣。
「城崎くんはこれでもいいかしら?」
「素敵な注染 ですね。いいんですか?」
「よく知ってるわねぇ。これはおじいちゃんのお古なんだけど、それでもいいかしら?」
「是非。」
城崎は青を基調とした柄物の浴衣。
去年みたいな落ち着いたのも格好良かったけど、これも絶対似合う。
「着付けしましょうか?」
「僕の着付けお願いしてもよろしいですか?お祖母様に教わって、綾人さんの着付けは僕がしてみたいです。」
「あら。いいじゃない。」
15分ほどで着付けが終わり、襖が開いて城崎が出てくる。
「か……、か…………」
「?」
「格好良い…!!」
予想を裏切らない…というか余裕で超えてきた。
雑誌から出てきたみたい。
じっと見つめていると、城崎は恥ずかしそうに顔を少し逸らした。
「綾人さんに早く着せたいからこっち来て?」
「は、はい…。」
思わず畏まってしまい、城崎にくすくす笑われる。
広い和室に二人きり。
着付けするだけだし、祖母の家で流石に何もしないと思うけど、やっぱり二人きりだとドキドキする。
「綾人さん、緊張してる?」
「………別に。」
「俺が綾人さんの着付けをしたいって言った理由分かりますか?」
「分かんない。なんで?」
「お祖母様にも綾人さんの体見せたくなかったんです。ヤバいでしょ、俺の独占欲。」
家族にまで感じてしまうほどの強い独占欲。
普通なら疲れてしまいそうな愛が、俺にとっては心地が良い。
熱っぽい目で見つめられ、さっき以上に心臓が高鳴る。
「あとはね、一番に綾人さんの浴衣姿が見たいから。」
「……っ」
「去年は甚兵衛でしたもんね。やっぱり綾人さんは綺麗だから浴衣の方が似合う。」
城崎が触れる場所全てに熱が宿る。
魔法にかけられたみたいに、城崎への気持ちが高まっていき、居ても立っても居られずに城崎に抱きついた。
「あっ!まだ途中なのに…。」
「ごめん……。」
「何?シたくなっちゃった?」
そう聞かれて、いつもなら悪態つくところだけど、俺は素直に頷いた。
城崎は目を丸くして俺を見る。
「珍しく素直…。」
「悪いかよ…。」
「いや?めちゃくちゃ嬉しいんですけど、ここでシていいんですか?」
「ダメに決まってんだろ、バカ…。」
隣の部屋にばあちゃんがいるのにできるわけない。
だけど堪らなくなって、唇を重ね合わせて何度もキスを繰り返した。
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