896 / 1069
第896話
『まもなく打ち上げ花火が上がります。』
アナウンスが鳴り、会場がより一層ざわつく。
そんな中、俺と城崎は人気のない雑木林の中に身を隠していた。
「そろそろ機嫌直せよ…。」
「キスして。」
「してんだろ、さっきから。」
「違う。綾人さんから。」
不満そうな表情の城崎にキスをして、唇を割って舌を入れる。
もうすぐ花火が上がるっていうのに、独占欲が強い恋人を持つって大変だ。
いや、嬉しいんだけどな?
でもこれじゃあ、去年と同じ道を……。
「んぅ…っ、ん…」
「綾人さん……」
「…はっぁ…、もう…機嫌直ったろ…?」
「なんか去年のこと思い出して興奮してきた…。綾人さん、シたい…。」
「盛んな…っ!」
グイグイと太腿に押し付けられるアレ。
シたい気持ちもあるにはあるけど、青姦なんて二度とごめんだ。
城崎の両肩を押し返し、腕一本分の距離を取る。
「ダメ!」
「………どうしても?」
「ダメったらダメ。花火見に行くぞ。」
「浴衣の綾人さんとエッチしたい。」
「…っ!ダメ!!」
握られた手に力が籠る。
なかなか諦めてくれない城崎を置いていこうと歩みを進めると、城崎は拗ねた子どもみたいな表情でついてきた。
「お祖母様の家に戻ったら浴衣脱いじゃうんですよね…。」
「そりゃそうだろ。」
「浴衣の綾人さんがいい…。」
「今日はダメだって。今度な。」
「今度っていつですか。」
ダメだ。マジの子どもだ…。
うーん…と考えていると、さっきのことを思い出す。
そうだ。いい代替案があるじゃん。
「温泉!温泉旅行の時、浴衣着るだろ!」
「…………」
「それでいいじゃん。な?今日は一緒に花火見よう?城崎と地元で花火見たって思い出作らせてよ。」
「………うん。」
城崎はぎゅーっと俺を抱きしめて、深いため息をついた。
多分興奮を沈めているんだと思うけど…。
ため息がエロすぎて俺まで勃ちそうになってしまった。
「城崎…?そろそろ行かないと…」
ドォン……!
大きな音と共に闇が明るく照らされた。
空を見上げると、大きな花が咲き誇っていた。
「始まった…。」
「綺麗…。すごく綺麗です…。」
城崎もきっとキラキラした目で見つめてるんだろうなと思って横を見ると、ばっちりと目が合ってしまった。
慌てて逸らして、また空を見上げる。
「何で俺の方見てんだよ…。」
「最初から綾人さんしか見てません。」
「はぁ?」
「綾人さんが綺麗だって言ったんです。綾人さんの瞳が花火でキラキラ煌めいて、感動してる表情もすごく綺麗。」
「くせぇセリフ…。」
「愛してます、綾人さん。」
後ろから抱きしめられて、城崎の腕に包まれる。
恥ずかしすぎて顔見れない…。
もう…。なんなの、こいつ……。
「俺も…。愛してるよ…、な…つき…///」
「っ!」
花火だけを映していた視界が、一瞬で城崎でいっぱいになった。
ともだちにシェアしよう!