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第897話

「二人とも、おかえり。楽しめたかい?」 花火の終了とともに祭りも終わり、祖母の家に戻ってきた。 結局花火のフィナーレは、城崎とキスしている間に終わってしまった。 めちゃくちゃ気持ちよかったけど…。 「はいっ!花火とっても綺麗でした!」 嘘つけ。見てなかっただろ。 とは言えず、内心苦笑する。 「よかったねぇ。小規模だとは言っても、打ち上げ花火には変わりないからねぇ。」 「周りに光がなくて空が暗いからか、すっごく綺麗でしたよ。都会とはまた別の美しさですね。」 「普段は星も綺麗なんだよ。また見においでね。」 「はい!是非!!」 見てない美しさを語る城崎が面白くて笑っていると、城崎はばあちゃんに見えないように、俺の横腹を抓った。 思わず身体が跳ねてしまい、キッと城崎を睨むと、城崎は手のひらを腰に当て、そのままお尻の方へスライドさせていく。 「…ふっ……ぅ…」 「どうしたんだい?綾人…」 「な、何にもない…っ」 ばあちゃんの死角で遊ぶ城崎の悪い手。 変な声が出ないように手で口を押さえると、ばあちゃんは心配して俺の近くへ寄ってきた。 「また人酔いしたのかい?昔もこんなことあったねぇ。」 「だ…、大丈夫だから…。」 「そう?なら、そろそろ着替えておいで。今から信人のところに帰って寝るんでしょう?」 「うん。き、着替えてくるね…っ。」 襖を閉めて城崎と二人きりになった瞬間、俺は城崎に掴み掛かった。 「馬鹿野郎!!バレたらどうしてくれんだよ!?」 「え〜。だって綾人さんが可愛くて可愛くて♡」 「そのリスキーな悪戯、本っ当に趣味悪いからやめろ!!」 「はーい♡…ていうか、綾人さん、人酔いするんだ?」 「昔の話な。都会に出てからはだいぶ慣れたよ。」 小さい頃、お祭りで迷子になって、花火始まる前だから人も多くて…。 まだチビだったから今の倍は人が大きく感じて、気持ち悪くなって、体調を崩した。 それ以降人混みは避けてたりしたんだけど…。 「さすがに都会の電車出勤だし、身体が慣れたよ。」 「満員電車ヤバいですもんね。」 「痴漢されるしな。」 まぁ城崎に、なんだけど。 冗談でそう言うと、城崎が鬼のような形相で俺を見下ろしていた。 「は??」 「怖いって!!お前のことだから!!」 「本当に?俺以外に触られたとかじゃないよね?」 「違う違う!城崎が電車で悪戯してくること、痴漢って言っただけ!!ジョーク!!」 「お仕置き追加ですね、これは。」 「なんでだよ?!」 理不尽に追加されたお仕置きに涙目になっている間に、城崎はさっさと俺を着替えさせた。 着替え終わってから時計を見ると、もう21時を過ぎていた。 「綾人、こんな時間だし今日は泊まっていく?」 「あー……、そうしようかな。朝一で向こう戻るよ。」 「そうね、そうしなさい。じゃあお布団の準備してくるわね。」 「僕も手伝います。」 祖母は嬉しそうに収納から布団を出そうとし、城崎がそれを手伝いに行った。 その間に俺は風呂を沸かしにいく。 夜は祖母が寝るまで質問責めにあったが、城崎はとても楽しそうに答えていて、なんだか嬉しくなった。

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