899 / 1069
第899話
昼食を食べている間、大翔は無言だった。
何度かちらちら城崎を見ては、目があった瞬間に逸らしての繰り返し。
城崎は不思議そうにしつつも、そんなに気にした様子ではなかった。
「もう帰るのよね?」
「うん。」
「駅まで送っていくよ。大翔はどうする?」
「………行かない。」
食べ終わって帰る支度をしていると、大翔はそそくさと部屋に戻っていった。
結局城崎にはお礼言わずじまいか…。
まぁ大翔の性格的に仕方ないかな。
「トイレお借りしていいですか?」
「おー。」
居間から城崎もいなくなって、両親と二人きりになる。
最初はドキドキしたけど、今はなんかすごく安心してる。
城崎を連れてきてよかった。
俺もいつかは城崎のご両親に挨拶に行きたいな…。
「綾人、あんないい人逃しちゃダメよ。」
「あんなに反対してたくせに。」
「私ったら、きっと気にしすぎだったのよね。綾人がこんなにも幸せそうなのに、別れさせようとしてたなんて…。」
「ほんとにな。あのとき結構キツかったな〜…。」
冗談で嫌味っぽく言うと、母さんは眉を下げた。
「ごめんなさい。」
「冗談だってば。心配してくれてありがとう。あと、俺たちのこと、認めてくれてありがとう。」
「綾人……。城崎くんと幸せにね。」
「うん。」
涙ぐむ母さんを抱きしめる。
いい親に恵まれてたんだなと、改めてそう思った。
「綾人、そろそろ出るぞ。」
「はーい。……あれ?城崎は?」
「まだ戻ってきてないぞ。」
父さんに呼ばれて玄関に行くと、城崎の姿がなかった。
まさか大か…?
トイレをノックするが返事がなくて、どこに行ったのかと心配していると、二階から降りてきた。
「城崎!」
「え、何?どうしたんですか?」
「何してたんだよ?いなくて焦った…。」
「あはは。ごめんなさい。もう準備できた?」
「うん。父さんも車回してくれてる。」
「そっか。じゃあ行きましょうか。」
玄関で靴を履いていると、母さんが見送りに来る。
城崎は深々と頭を下げた。
「お母様、三日間お世話になりました。」
「城崎くん、綾人のことよろしくお願いします。」
「任せてください。」
「これからは本当の親のように私達を頼ってね。またいつでも遊びにおいでね。」
「はい!ありがとうございました!」
城崎は頭を上げて、俺の手を握った。
外に出ると、父さんが車のエンジンをかけて待ってくれていた。
車で数十分、駅に着いて車を降りる。
「お父様も、本当にお世話になりました。」
「こちらこそ礼を言うよ。城崎くんのおかげで、本当の綾人が見れた気がするんだ。」
「父さん…。」
「またいつでも帰ってきなさい。待ってるよ。」
父さんに見送られ、俺と城崎は改札を通って、予定していた電車に乗り込んだ。
ともだちにシェアしよう!