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第899話

昼食を食べている間、大翔は無言だった。 何度かちらちら城崎を見ては、目があった瞬間に逸らしての繰り返し。 城崎は不思議そうにしつつも、そんなに気にした様子ではなかった。 「もう帰るのよね?」 「うん。」 「駅まで送っていくよ。大翔はどうする?」 「………行かない。」 食べ終わって帰る支度をしていると、大翔はそそくさと部屋に戻っていった。 結局城崎にはお礼言わずじまいか…。 まぁ大翔の性格的に仕方ないかな。 「トイレお借りしていいですか?」 「おー。」 居間から城崎もいなくなって、両親と二人きりになる。 最初はドキドキしたけど、今はなんかすごく安心してる。 城崎を連れてきてよかった。 俺もいつかは城崎のご両親に挨拶に行きたいな…。 「綾人、あんないい人逃しちゃダメよ。」 「あんなに反対してたくせに。」 「私ったら、きっと気にしすぎだったのよね。綾人がこんなにも幸せそうなのに、別れさせようとしてたなんて…。」 「ほんとにな。あのとき結構キツかったな〜…。」 冗談で嫌味っぽく言うと、母さんは眉を下げた。 「ごめんなさい。」 「冗談だってば。心配してくれてありがとう。あと、俺たちのこと、認めてくれてありがとう。」 「綾人……。城崎くんと幸せにね。」 「うん。」 涙ぐむ母さんを抱きしめる。 いい親に恵まれてたんだなと、改めてそう思った。 「綾人、そろそろ出るぞ。」 「はーい。……あれ?城崎は?」 「まだ戻ってきてないぞ。」 父さんに呼ばれて玄関に行くと、城崎の姿がなかった。 まさか大か…? トイレをノックするが返事がなくて、どこに行ったのかと心配していると、二階から降りてきた。 「城崎!」 「え、何?どうしたんですか?」 「何してたんだよ?いなくて焦った…。」 「あはは。ごめんなさい。もう準備できた?」 「うん。父さんも車回してくれてる。」 「そっか。じゃあ行きましょうか。」 玄関で靴を履いていると、母さんが見送りに来る。 城崎は深々と頭を下げた。 「お母様、三日間お世話になりました。」 「城崎くん、綾人のことよろしくお願いします。」 「任せてください。」 「これからは本当の親のように私達を頼ってね。またいつでも遊びにおいでね。」 「はい!ありがとうございました!」 城崎は頭を上げて、俺の手を握った。 外に出ると、父さんが車のエンジンをかけて待ってくれていた。 車で数十分、駅に着いて車を降りる。 「お父様も、本当にお世話になりました。」 「こちらこそ礼を言うよ。城崎くんのおかげで、本当の綾人が見れた気がするんだ。」 「父さん…。」 「またいつでも帰ってきなさい。待ってるよ。」 父さんに見送られ、俺と城崎は改札を通って、予定していた電車に乗り込んだ。

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