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第900話

帰りの電車は、疲れて城崎の肩を借りて眠ってしまった。 城崎の方が緊張して疲れただろうに、東京に着いても文句一つ言わなかった。 最寄り駅から家まで歩いている間、この三日間の思い出を話した。 城崎が楽しかったと言ってくれて、俺も心が温かくなった。 「そういえば、帰る前二階で何してたんだ?」 「あー…。大翔くんに呼ばれたんです。」 「え?」 「兄さんのこと泣かせたら許さないからって、釘刺されました。でもそれって、きっと大翔くんなりに俺のこと認めてくれたんだと思うんです。」 なるほど。 それで嬉しそうだったんだ。 そっか。大翔も認めてくれたんだ…。 「あと、ぼそっとお礼言われました。多分。」 「ちゃんとお礼言ってたならよかった。」 「あの解説で問題の仕組みが分かるなら、大翔くん相当やりますね。」 「受かるかなぁ。」 「応援したい気持ちは山々ですけど、上京してきたら悪質な姑みたいにいびってきそうで嫌です…。」 「あはは!たしかに!」 話しているとあっという間に家に着いた。 数日ぶりの我が家。 鍵を開けて中に入ると、城崎に抱きしめられる。 俺も早く城崎に触れたかったから、抱きしめ返してキスをした。 「綾人さん……」 「ベッド行こ…?」 誘うように伝えると、城崎は俺を抱き上げて寝室へと直行した。 ベッドに下ろされ、いつもゴムを入れてるサイドテーブルの引き出しに手を伸ばしたと思ったら、城崎の動きが止まった。 「どうした…?」 「……………」 「城崎…?」 「………忘れてました。」 何が? そう思ったけど、城崎の手元にある『セックス禁止!』の張り紙を見て思い出す。 そうだ…。そうだった…。 倉科さんとの勝負に負けた罰ゲームとして、一週間のセックス禁止。 守れそうにないからと、あの夜こうして張り紙までしたんだった。 「一ヶ月は無理だもん…。透さんのことだから、絶対期限前日に綾人さんに聞きに来るし…。」 「まじ?」 「多分明日くらいには連絡来るんじゃないかな…。17日飲みに行こうって。」 聞かれないならシてもいいんじゃ?と思った俺の浅はかな考えは数秒で打ち砕かれた。 城崎は深いため息をついてベッドに沈む。 「はぁ〜〜〜………。綾人さんとシたい………。」 「……俺もシたいよ。」 「もぉ〜!なんでそんなこと言うかな?!抱きたくなっちゃうんですけど!!」 「一週間長くないか?倉科さんに交渉してみるとか…」 「無理無理。あの人ドSだもん。」 「試すくらいいいんじゃないか?」 100%断られると決まったわけじゃないし。 そう伝えると、城崎はすぐに倉科さんに電話をかけた。 『……』 「あの…っ!期限を3日ほど短く…」 『……』 「あああああああああ!!!」 無理だったんだ…。 一瞬でそう察した。 一分ほどで通話が終わり、城崎はげんなりした顔で俺を抱きしめた。 「無理でした……。それどころか、やっぱり17日の夜飲みに行こうって…。」 「はは…。」 「あーーーもう。キスしよ。綾人さん、キス!めーーーーーっちゃくちゃ気持ちいいキスしよ!!!」 城崎は腰砕けになってしまうような蕩けるようなキスを、何回も、何十回もしてくれた。

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