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第911話
仕事に行かないと駄々を捏ねる夏月をなんとか説得し、10時過ぎにやっと送り出した。
自分でやるって言ってるのに、おにぎりまで作っていってくれた。
本当優しいんだよな…。
「……夏月…。」
ぼそりと恋人の名前を呟く。
普段恥ずかしくて呼べないのに、今日は何だか抵抗がない。
夜通し呼び続けていたからだろうか?
"綾人"
夏月は時々俺をそう呼んでくれる。
切羽詰まった時が多いけど、俺をそう呼ぶ時の夏月はいつも俺の目をまっすぐ見つめてる。
まるで名前を通して、俺に愛を伝えているみたいに。
「あ〜……、女々しい。自分がキモい……。」
思い出しては赤面して、体の芯から熱くなる。
一週間長かったな…。
我慢した分、めちゃくちゃ気持ちよかった…。
まだ鮮明に夏月の息遣いとか、俺を呼ぶ声とか、イク時の表情とか思い出せる。
胸がきゅーっとなって、布団を体に巻きつけた。
「ダメだ…。好きすぎる……。」
自分で追い出したくせに、一人になると寂しくなる。
俺も頑張って出勤すればよかった。
でも、動けないし、お腹痛いし…。
お腹が痛かったことを思い出したら、急激にトイレに行きたくなった。
「〜っ、動けねぇ…。うぅ…。」
床に這いつくばりながらトイレを目指す。
何とか辿り着き、便座に座った。
こんなにも動けないなら、いっそ夏月が帰ってくるまでトイレに座っておこうか…。
なんて考えてみたけど、そうするとお尻も腰も痛くなるし、おにぎりも食べれないし、やっぱりダメだ。
1時間ほど座り続け、また床を這いながら寝室へ戻り、夏月が作り置きしてくれたおにぎりを頬張った。
「うま……。」
いろんな具のおにぎりを小さめにたくさん作ってくれていたから、好きな分だけ食べられた。
正午が過ぎてしばらくして、スマホの画面が光る。
夏月からの着信だった。
「もしもし。」
『もしもし、綾人さん?身体は大丈夫?お昼は食べました?』
「うん、大丈夫。おにぎりも食べたよ。美味かった、ありがとう。」
『よかった。ねぇ、綾人さん。顔見たいからビデオ通話にしてもいい?』
「うん。」
画面に夏月の顔が映る。
うっわ…。好き……。
『綾人さん…?』
「へっ…?な、何??」
『ぼーっとしてるから。あーあ。顔見たら早く帰りたくなっちゃったなぁ。』
拗ねたような表情でそんな嬉しいことを言う。
俺だって早く会いたい…。
「あ…のさ……」
『うん?』
「帰ったら…、その……」
『なーに?甘えたい?』
「………ぅん…。」
口ごもっていると、代わりに向こうから聞いてくれる。
俺の考えなんて何でもお見通しみたいだ。
『外回りから直帰していいか聞いてみます。うまくいけば17時には帰れるかな?』
「待ってる…。」
『はいっ♡』
夏月の休憩が終わるまで通話して、画面越しにキスして通話を終えた。
夏月が帰ってくるのが楽しみで仕方なくて、玄関で出迎えられるように、俺はベッドの上でストレッチを始めた。
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