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第914話

背中にズシンッと体重がかけられる。 この重さは夏月…。 「綾人さん〜♡好きっ♡」 「ば、バカ!失礼だろ!」 「今は俺と綾人さんの時間ですっ♡」 親を無視していちゃつこうとするなんて…。 ありえない…。でも夏月を拒否するなんて俺には…。 「望月さん、ごめんなさいね。夏月ったら、しょっちゅう迷惑かけてるでしょ。」 「えっ…、いや!全然!むしろ俺の方が…」 「おふくろ、もう大丈夫だから帰っていいよ。綾人さんとは改めて挨拶行くし。」 もう!だからなんでそんな態度…!? 嫌な印象持たれたくないのに…。 おろおろしていたら、城崎のお母さんは俺に微笑みかける。 「そうみたいね。じゃあ望月さん、夏月のことお願いしてもいいかしら?」 「えっ…。は、はい!」 「驚かせて本当にごめんなさいね。是非今度遊びにいらしてね。」 「はい!また改めてご挨拶させてください。」 お母さんが病室を出て行こうと扉に手をかけた時、夏月が「待って。」と声をかける。 やっと息子らしい言葉が聞けるのかと思ったら、放たれたのは実に城崎らしい一言だった。 「くれぐれも葉月がこっち来ないようにだけよろしく。」 「あんたはもう…。他に言うことないのかしら?」 「邪魔されたくないんだよ。」 「お兄ちゃんなんだから、もう少しくらい葉月に優しくしなさい。じゃあね。」 お母さんは少し呆れた様子で帰ってしまった。 ということは…。 夏月と二人きり…。 意識した瞬間、ドキドキと心臓が甘く脈打つ。 「綾人さん、心配かけてごめんなさい。」 「…っ」 抱きしめられて、ほっとした安心感にボロボロと涙が溢れた。 「夏月ぃ…っ。死んじゃったらどうしようって…、怖かった…」 「大丈夫。ここにいるよ。」 「17時に帰るって言ったのに…。約束破るな、馬鹿野郎…っ」 「寂しい思いさせてごめんなさい。」 何度もキスされて、少しずつ涙が止まる。 看護師さんとか入ってきたらどうしようって気持ちは、いつの間にかなくなっていた。 「それよりさ…、あの……」 「ん…、何…?」 「俺のこと、夏月って呼んでくれてんの超嬉しい…。」 「…っ!」 急に恥ずかしいところを突かれて、息を呑む。 帰ったら呼んであげようって、ずっと家で夏月って言ってたから無意識に…。 「城崎…」 「やだ。夏月がいい。これからはずっと夏月って呼んで?」 「っ…」 夏月は耳、髪、頬、鼻…、色んなところにキスして「ね?お願い。」と猫撫で声で甘えてくる。 うぅ…、可愛い……。あざとい……。 「…な…つき……」 「はいっ♡」 「夏月…、なつ…っ!」 名前を呼ぶと、夏月はとびきりの笑顔で唇にキスをした。

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