915 / 1069
第915話
涙もすっかり引っ込んで、夏月とベッドに腰掛ける。
もうそろそろ俺は帰らなきゃだよな…。
お腹も空いた。何も食べてないし。
「今日…」
「うん?」
「…夏月のために…、ご飯作って待ってたんだからな…。」
「えっ!食べたい!」
「でも一泊しなきゃだろ…。」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、夏月は検査入院って言ってたし…。
頑張ったけど仕方ない。
「明日食べる!置いといて!」
「急いで家出たから、冷蔵庫に入れてないし、夏だからもうダメかも。」
「お腹下してでも食べます。置いてて!」
「それはダメだろ…。俺今日帰って食ってみるから、いけそうだったら冷蔵庫入れとく。」
「それ傷んでたら、綾人さんがお腹下しちゃうじゃないですか。」
「腹減ったんだもん。」
背中とくっつきそうだとお腹を触ってアピールすると、夏月はくすくす笑う。
俺を抱きしめて体重を預けてきて、甘える予定だったはずが甘えられてる。
「適当にコンビニで買って帰って、今日作ってくれたのは俺が食べるから置いててね?」
「本当に食うのか?」
「当たり前でしょ。」
「ふーん…。」
そんなに俺の料理を食べたいのかと思うと、とても嬉しい。
でも喜んでるのがバレたくなくて、素っ気ない返事をする。
「朝は動けなくて仕事休むほどだったのに、俺のために手料理まで作って待ってくれてるなんて、綾人さんは本当に最っ高なお嫁さんですっ♡もう痛みは平気?」
「平気。焦り過ぎて今まで痛みとか忘れてた。」
「俺のこと大好きすぎて?」
「そうだよ。つーか、そもそもなんで事故なんて巻き込まれたんだよ。考え事してたのか?」
普段の夏月が不注意起こすとは思わないし、何か理由があるのかも。
というか、どういう事故だったのかも聞いてないし、事故っていう割にここにいるのは夏月だけだし…。
「小さい男の子がね、赤信号なのにそのまま渡ろうとしてて…。トラックが来てたからヤバって思ってたら、いつの間にか俺も飛び込んじゃってて。男の子抱きかかえて、そのまま転がって電柱に頭ぶつけちゃいました。」
「え…?」
「多分その時に脳震盪起こしたみたいで、気づいたら病院だったんで後はこの通り。」
不注意じゃなくて人助け…。
そっか。そうだったんだ…。
「本当はよくやったって褒めてやるべきなんだろうけど、俺はもうそんな危ないことしないで欲しい…。」
「うん…。ごめんね、綾人さん…。」
「おまえがいない明日なんて考えたくない…。絶対に自分の命優先しろ。命令だからな、これ。」
「はい…。俺も綾人さんのいない明日は想像できないです。だから先に死ぬなんて絶対にしないから。約束する。」
ゆびきりげんまん。
小指同士を繋いで、もう危険に身を投じることはやめようと約束した。
またキスをして、もう一度…。
唇を離して見つめあっていたら、照れ臭くて俺から先に目を逸らした。
「そういえば、明日何時に帰る?もちろん仕事休むだろ?」
「職場には朝一で連絡します。帰るのは…、何時になるかな。事故は事故だから、明日警察が少し話を聞きにくるって。」
「そっか…。俺も休んで付き添おうか?」
「大丈夫ですよ。心配しないで、お仕事頑張ってください!」
心配しないはずがないけど、あまり心配し過ぎても夏月に迷惑をかけそうだ。
コンコン…とノックされ、看護師から消灯時間のため面会者は帰宅するよう伝えられた。
ともだちにシェアしよう!