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第925話

そして翌日。 今日から一泊二日の温泉旅行。 必要最低限のものはリュックに詰めて、夏月が持ってくれた。 俺はいつも外出する時くらいの軽装備。 「なぁ、荷物交代で持つよ?」 「余裕ですよ、これくらい。あっ!綾人さん、バス来ちゃいます!行きましょ!」 予約していた名前を伝え、座席に向かう。 夏月は俺を窓側に座らせ、ブランケットやアイマスクなどを鞄から取り出す。 「待って。俺は寝る前提?」 「だって喋れる環境じゃないし。それに綾人さん、疲れてるでしょ?」 「うっ…」 図星を疲れて口籠もる。 俺を疲れさせた原因は間違いなくこいつなんだけどな。 今日観光するからあんまり激しくすんなって何回も言ったのに、あと一回、あと一回って何度も……。 「言っときますけど、綾人さんが悪いんですからね。」 「は?」 「可愛すぎるんです。俺は誘惑に負けただけっ。」 俺のせいかよ。 納得いかなくて足を踏むと、そのまま足を絡められて触れる面積が増える。 「こんな狭いところでもいちゃつきたいんだ?………ってぇ!」 「バカ。」 体を寄せて耳元で馬鹿なこと囁いてきたから、鳩尾に肘打ちを喰らわせてやった。 夏月はヒクヒクと口元をぴくつかせながらも、めげずに俺の腰に手を回してきた。 それくらいのスキンシップなら見えないかな…と、そのまま目を閉じて、俺は高速バスに揺られる約4時間を寝ることに費やした。 『長らくのご乗車お疲れさまでした。終点、草津温泉です。』 車内アナウンスが鳴り、夏月が優しく俺を起こす。 ぐーっと伸びをして、半分寝たままボーッとしていると、夏月はブランケットで周りからの目を遮り、俺に触れるだけのキスをした。 「なっ…、なにして……!?」 「目ぇ覚めた?」 わなわなと震える俺を見て、楽しそうに笑ってる夏月。 バレたらどうすんだよ?! バスを降りてから怒ると、夏月はあっけらかんと「見られないようにブランケットで隠したじゃないですか。」なんて言って笑っていた。 まずは荷物を置きに行こうと旅館に向かうと、いっぱいに広がる湯畑が目に入る。 「すっげー!」 「あはは!綾人さん可愛い。あとでゆっくり見ましょうね。」 「初めて見た!」 「わかったわかった。あー可愛いな、もう。」 テンション上がる俺と、俺の手を引いて旅館に一直線に進んでいく夏月。 夏月がいなかったら前に進んでいなかったかもしれない。 しばらく歩くと旅館に着いた。 部屋付き露天があるくらいだからある程度予想はしていたけど、立派な旅館だ。 「予約していた城崎です。」 「お待ちしておりました。城崎様、こちらです。」 スタッフに案内されて部屋に入ると、広くて立派な和室だった。 部屋から見える露天は陶器で作られた風呂で、部屋からの景色もとても良い。 「500円でこれは最高ですね…。」 「おぉ…。豪華だな。」 「観光用に浴衣レンタルもしてるらしいですよ。今回もどうですか?」 「着る!」 「決まりですね♪」 荷物を置いて軽く休憩した後、俺と夏月はレンタルの浴衣に着替えて温泉街へと繰り出した。

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