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第930話
いつもと違う畳の匂いで目を覚ます。
場所は違えど、目の前で大好きな人が気持ちよさそうに寝てるのはいつも通りだ。
ご丁寧に館内着の浴衣を綺麗に着せられていた。
「どんだけ浴衣好きなんだよ…。」
昨日も脱がせろって言ってんのに、ほぼ最後の方までずっと浴衣着たまんまだったしな。
着崩れてるのが興奮する…とか言ってたっけ。
前髪をよけると、あどけない夏月の寝顔。
あれだけ雄々 しかったはずの男が、寝たらちょっと幼く見えたりするのも俺だけの特権だよなぁ…。
「んん…」
「夏月、朝だよ。」
チュッと額にキスすると、幸せそうな顔してまた深い眠りに入る。
違う違う。起きろっつってんの。
体を起こすと、ズンッとした重い痛みが腰を走る。
「痛ぇ……」
またヤリすぎた…。
夏月は宣言通り、箱が空になるまでコンドームを使い切った。
つまりそれだけヤッたってことで。
ガクンっと体勢を崩し、夏月の上に倒れ込むと、夏月は唸りながら目を覚ました。
「うーん…、綾人さん……?」
「お…、おはよ…。悪い、変な起こし方して…。」
「寝込みを襲ってくれたなら大歓迎ですけど。」
「わっ?!」
上にいたはずの俺がいつの間にか押し倒されている。
何故…?
「惜しいな。着崩して襲ってくれたら百点満点だったんだけど。」
「そういうつもりじゃなかったし…。」
「じゃあしない?」
「………する。」
夏月の誘いを二つ返事で引き受ける。
寝覚めの一発、枯れてるはずの夏月のソレは何故かとても元気で、しっかり1R を終えた。
そのあとは部屋付きの露天風呂でまったり寛ぐ。
「夏月さぁ、元気すぎないか?」
「そう?綾人さんも応えてくれてるじゃん。」
「俺はもう限界だけど、夏月ピンピンしてるから…。」
「好きな人を愛する行為に限界なんてないですからね。」
「まるで俺がおまえへの愛に限界があったって言ったみたいな言い方やめろよ…。心じゃなくて体が悲鳴あげてる。」
くたぁっと夏月にもたれかかると、夏月は俺の腰を撫でながら眉を下げる。
「ご老体ですからね…。」
「おいこら。誰が老体だと?」
「あはは!ごめんなさい!」
バシャンッとお湯をかけると、夏月は楽しそうに笑いながら謝った。
可愛いな、クソ…。
「今日はどうする?観光して帰る?」
「行けると思うか?」
「………車椅子乗る?」
「お前マジで調子乗んなよ?」
「ごめんなさい。」
両耳を引っ張ると、またキャッキャと嬉しそうにはしゃぎながら謝っていた。
夏月が冗談で言ってるのは分かってるけど、俺は歳のこと気にしてるんだからな…。
俺の方が早く老いて、そのうち夏月のこと満足させてやれなくなる。
そうなったら、俺……。
「綾人さんが本当にご老体になったら、俺はそばで介護し続けますからっ♡」
「………夏月の自由に生きていいよ。」
「俺は綾人さんのそばから離れるつもりないですし。それに6歳差なんて歳取れば取るほど気にならないくらいの歳の差ですよ。二人ともおじいちゃんです♪」
まるで俺の心を見透かしてるかのような夏月の言葉。
やっぱ夏月のそばって、すげー安心する…。
「歳取ったらまた来ような。」
「はい♪また一緒に温泉入りましょう♡」
指の皮が皺くちゃになるまで温泉を楽しみ、帰りにお土産を買って高速バスに乗った。
こうして俺と夏月の温泉旅行は幕を閉じた。
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