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第932話

土曜日、朝起きて外出の準備をする。 外出といっても、心療内科の受診だけど。 「おはよう。」 「おはよ、綾人さん…♡」 夏月はむにゃむにゃ眠そうにしながら、俺におはようのキスをした。 最近受診の前日、夜更かしが多くて遅刻しかける。 分かってるんだけど、金曜の夜ってついな…。 「綾人さん、今日は一人で行けそう?」 「え?あ、うん。行けるけど。」 「そっか。俺疲れちゃったから、家で待っててもいい?」 「おう…。」 珍しく夏月の方から受診の同行を断ってきた。 いつも俺が断っても着いてくるくせに…。 俺、なんかしたかな…? 「美味しいランチ作って待ってるね♡何か食べたいのある?」 「ううん。特には…。」 「そっか。気をつけて行ってきてくださいね。」 「うん。行ってくる。」 「あ。もし食べたいの思いついたら、早めに教えてくださいね。」 ほっぺにキスされ、玄関先まで見送ってくれる。 エレベーターで下まで降り、部屋を見上げると、ベランダから手を振ってくれていた。 俺の勘違い? 本当に疲れてたのかな。 一週間残業ありの働き詰めで、夏月は外回りだったから色んなところに謝りに行ったりしてたし…。 昨日も疲れたのか、俺に挿れたまま寝ちゃったし…。 駅に着いて、電車に乗って移動する。 クリニックに着く前に、喫茶店がランチの看板を出し始めていて、そこに書いてある『ナポリタン』という文字を見て、夏月の作ったナポリタンが食べたくなった。 メールを送ると、『了解です。帰りはまっすぐ帰ってきてくださいね!』と警告付きで返事がきた。 受付で予約票を出すと、すぐに診察室に通してくれた。 「望月さん、おはようございます。」 「おはようございます。」 「今日はお一人なんですね。調子はいかがですか?」 2回前の受診は夏月が怪我して一人で来たけど、前回は夏月の足も完治してたから一緒に来た。 何もなかったら大体夏月が付いてきてるからな…。 「今日は疲れたから一人で行ける?って聞かれて…。俺何かしちゃったかなって…。」 「城崎さんのことですから、嫌なことがあったらちゃんと望月さんに伝えてくれると思いますよ。」 「……ですよね。俺の勘違いだったらいいんですけど。」 「きっと大丈夫です。さて、二週間のお話、話せる範囲でお伺いしてもよろしいですか?」 渡瀬先生と数十分の会話、これが診察の一環だ。 旅行の話をすると、思い出して幸せな気持ちになる。 「薬減らしても大丈夫そうですね。4日に1回に減らしましょうか。」 「本当ですか。よかった。」 「受診のペースもまたあけてみましょう。次は一ヶ月後に予約しておきます。もし不安が強まるようでしたら、早めに受診してください。問題なければ次でお薬も切ってみましょう。」 「はい。」 「次回は可能であれば城崎さんも一緒にお越しください。お薬を切るにあたって、城崎さんにも話しておきたいので。」 「わかりました。ありがとうございました。」 診察を終えて、会計して帰路に着く。 夏月からメッセージが入ってて、じんわりと心が温かくなった。 駅まで迎えに行くという内容のあとに、わざわざ『愛してます』なんて送ってきて、俺は照れ臭くてどう返せばいいか分からず、結局悩んだ末に適当な返信を送って、顔を赤くしたまま電車に揺られた。

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