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第938話

「綾人さん、誕生日おめでとう。」 「え。」 時計の方に視線をやると、ちょうど0時を示していた。 嘘…?ずっとキスしてた…。 びっくりして固まっていると、夏月は俺の目をじっと見つめた。 「どうしたの?」 「や…。何時間キスしてたのかと思って…。」 「ふふ。綾人さんが息切れしないように途中から配慮してたからね。気づかなかったでしょ?」 「気づかなかった…。」 たしかに貪るようなキスの時と違って、息切れはしてないかも…。 すげー穏やかに幸せほわわんみたいな…。 「なぁ…」 「ん〜?どうしたの?」 「唇触っていい?」 「いいよ?」 夏月は不思議そうに首を傾げながらも、目を閉じて唇を差し出した。 ふっ…(笑) 無防備すぎ…。 でもきっと、俺だからなんだよな。 「綾人さん、触んないの?」 「触る。」 目を閉じて待ってる夏月も可愛い。 人差し指で唇に触れる。 やっぱ柔らかくて気持ちいいな…。 「なんかしてんの?」 「ん〜?内緒。」 「女子かよ(笑)」 「嘘嘘。キスした時に綾人さんに気持ちいいって思ってもらえるように日々ケアしてるんです。綾人さんにもあげたでしょ?リップ。」 あー…、もらった。 キスしすぎで皮めくれた時に買ってくれた。 「あれ使ってから綾人さんの唇柔らかぷるっぷるで、もうなんかやばってなって、俺も買いました♡」 「日本語下手か。」 「俺、綾人さんケアもっと頑張ろうかなー。スクラブとか買ってお肌もツルツルにしたり…。」 「なんだそれ。しなくていいよ、めんどくさい。」 女の子がやるようなことを31歳になったおじさんがやってどうするんだ。 というか、俺のためにまた金無駄に使おうとして…。 そう思ってたのに、夏月がボソリと呟く。 「どっちかと言うと自分のためだし…。」 「……!!」 今の、俺の肌がスベスベになると、夏月も嬉しいってこと…だよな? えー…。頑張ろうかな……。 聞こえてないと思ったのか、特に続きは何も言ってこなかったけど、聞こえてしまったからには好きな人を喜ばせたいと思うものだ。 週明け千紗にでも相談してみるかな…。 悩んでいると、夏月に抱きしめられた。 「綾人さん、これからの誕生日もこうして一緒に祝わせて?ずっとずっとそばにいたい。大好きだよ。」 「うん。俺も。」 「へへ。あ〜幸せっ!綾人さん、もう疲れたでしょ?今日はぎゅ〜ってして寝ましょう。」 夏月は俺を抱きしめたまま目を閉じる。 疲れたのは疲れたけど。 それよりも、ほんのり硬いもんが太腿に当たってんだけど。 「マジでシねぇの?」 「綾人さんの身体にも気を遣える男なので!」 「ははっ!なんだそれ(笑)」 今日は本当にするつもりはないらしく、夏月は早くも目を閉じた。 うん。俺も疲れたし寝ようかな。 今すっげー幸せ気分だし。 このままうとうとって…。 「………zzz」 「ふっ…。綾人さん、おやすみなさい♡」 夢か現実かどうか分からなかったけど、完全に眠りに落ちる直前に夏月にキスされたような、そんな気がした。

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