942 / 1069
第942話
逃げるように部屋を出ても、夏月は追いかけてこなかった。
せっかくくれたプレゼントだったのに、ムキになりすぎたか…?
でもそんなの、俺が素直に受け取らないことなんて分かりきってたはずなのに…。
「バカ。バカバカバーカ。」
ちゃんとお礼言えない俺もバカ。
一旦頭冷やそう。
数分寝たら頭もリセットされて、素直に謝れると思う。
寝室に入ってベッドにダイブし、枕を抱きしめようと手に取ると、枕の下に手紙が置いてあった。
「何これ?」
二つ折りの厚紙を開くと、オルゴール調のバースデーメロディが流れる。
これ…、もしかして最後の一つ?
カードには夏月の綺麗な字で、メッセージが綴られていた。
『綾人さんへ
31歳のお誕生日おめでとうございます。
生まれてきてくれてありがとう。
綾人さんは俺にとって宝物、人生の全てです。
普段は格好良くて頼り甲斐のある、みんなの憧れの人。
でも俺にだけ見せてくれる甘えたなところや、えっちなことが大好きなところ、照れてすぐ赤くなるところとか、すごく寂しがりやなところ、全てが愛おしくてたまりません。
これから何十年先も、こうして一緒に誕生日を祝えることを楽しみにしています。
いつまでも一緒に、健康に過ごしていきましょう。
世界一、誰よりも貴方のことを愛しています。
城崎 夏月より』
読み終わったと同時に、タイミングよくメロディが終わる。
嬉しい…。
俺も夏月とずっとずっと一緒にいたい。
手紙を何度も読み返していると、寝室のドアが開いた。
「あ。見つけました?」
「…っ!」
「わぁっ!?………え?泣いてる?」
夏月の姿が見えた瞬間、どうしようもなく愛おしくて飛びついた。
夏月はびっくりしていたけど、すぐに俺のことを優しく抱きしめてくれる。
「………これが一番嬉しかった。」
「よかった。泣くほど嬉しかったの?」
頷くと、夏月は照れくさそうに笑いながら、俺の涙を拭いてくれる。
ベッドに腰掛けて夏月とキスしていると、いつの間にか涙は止まっていた。
「夏月…、プレゼントいつ隠したんだ?ずっと一緒にいたのに…。」
「昨日、綾人さんに一人でクリニック行ってもらったでしょ?」
「あ。」
そうか。だから……。
俺、てっきり……。
「嫌われたのかと思った……。」
「え?」
「昨日一人で行けって言うから…。今までそんなこと言ったことなかったじゃん…。だから、俺何か気に障るようなことしちゃったかなって…。嫌われたらどうしようって不安になって…。」
「えぇっ?!そんなわけないじゃないですか!俺、綾人さんのこと大大大だーいすきですよ?!」
「うん。勘違いでよかった。」
心の隅にあった不安も夏月が全部消し去ってくれて、安心して穏やかな気持ちで満たされた。
ともだちにシェアしよう!