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第942話

逃げるように部屋を出ても、夏月は追いかけてこなかった。 せっかくくれたプレゼントだったのに、ムキになりすぎたか…? でもそんなの、俺が素直に受け取らないことなんて分かりきってたはずなのに…。 「バカ。バカバカバーカ。」 ちゃんとお礼言えない俺もバカ。 一旦頭冷やそう。 数分寝たら頭もリセットされて、素直に謝れると思う。 寝室に入ってベッドにダイブし、枕を抱きしめようと手に取ると、枕の下に手紙が置いてあった。 「何これ?」 二つ折りの厚紙を開くと、オルゴール調のバースデーメロディが流れる。 これ…、もしかして最後の一つ? カードには夏月の綺麗な字で、メッセージが綴られていた。 『綾人さんへ 31歳のお誕生日おめでとうございます。 生まれてきてくれてありがとう。 綾人さんは俺にとって宝物、人生の全てです。 普段は格好良くて頼り甲斐のある、みんなの憧れの人。 でも俺にだけ見せてくれる甘えたなところや、えっちなことが大好きなところ、照れてすぐ赤くなるところとか、すごく寂しがりやなところ、全てが愛おしくてたまりません。 これから何十年先も、こうして一緒に誕生日を祝えることを楽しみにしています。 いつまでも一緒に、健康に過ごしていきましょう。 世界一、誰よりも貴方のことを愛しています。 城崎 夏月より』 読み終わったと同時に、タイミングよくメロディが終わる。 嬉しい…。 俺も夏月とずっとずっと一緒にいたい。 手紙を何度も読み返していると、寝室のドアが開いた。 「あ。見つけました?」 「…っ!」 「わぁっ!?………え?泣いてる?」 夏月の姿が見えた瞬間、どうしようもなく愛おしくて飛びついた。 夏月はびっくりしていたけど、すぐに俺のことを優しく抱きしめてくれる。 「………これが一番嬉しかった。」 「よかった。泣くほど嬉しかったの?」 頷くと、夏月は照れくさそうに笑いながら、俺の涙を拭いてくれる。 ベッドに腰掛けて夏月とキスしていると、いつの間にか涙は止まっていた。 「夏月…、プレゼントいつ隠したんだ?ずっと一緒にいたのに…。」 「昨日、綾人さんに一人でクリニック行ってもらったでしょ?」 「あ。」 そうか。だから……。 俺、てっきり……。 「嫌われたのかと思った……。」 「え?」 「昨日一人で行けって言うから…。今までそんなこと言ったことなかったじゃん…。だから、俺何か気に障るようなことしちゃったかなって…。嫌われたらどうしようって不安になって…。」 「えぇっ?!そんなわけないじゃないですか!俺、綾人さんのこと大大大だーいすきですよ?!」 「うん。勘違いでよかった。」 心の隅にあった不安も夏月が全部消し去ってくれて、安心して穏やかな気持ちで満たされた。

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