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第944話
ハッと目を覚ます。
やべ…。寝てた?
「あ。起きた?」
「俺寝てた?」
「うん。疲れて寝ちゃったみたい。おはようございます♡」
チュッと触れるだけのキスをされて思い出す。
そうだ。
キスしすぎて疲れてソファに寝転んで、それで…。
「そろそろ起こそうと思ってたんです。もうすぐ出た方がいいかなーって。」
「本当だ。もうこんな時間か。」
「行きましょうか。」
玄関でいってきますのキスを交わして外に出る。
電車に乗って十数分。
まずは俺の用事に夏月を付き合わせる。
駅で降りてしばらく歩くと、目的の店が見えてきた。
「着いた。」
「え?ここ…」
「入るぞ。」
都内の駅近くに本店を構える有名なシルバー店。
状況の理解に追いついていない夏月の手を引いて中に入る。
「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。」
「あぁ、すみません。予約していたものを受け取りに来たんですが。」
「お控えを確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
声をかけてくれたスタッフに控えを渡すと、待合ブースに通される。
「綾人さん、何買ったんですか?」
「んー。秘密。」
「えー。」
文句垂れる夏月に適当に相槌打っていると、スタッフが戻ってきた。
「お待たせ致しました。こちらでお間違いないでしょうか?」
手袋越しに開けられた箱の中には、シンプルな銀色のバングル。
触れていいのかと視線を上げると、にこりと微笑まれる。
「どうぞ。お手にとってご確認ください。」
「はい…。」
バングルを手にとって内側を確認する。
あ…、よかった……。
「ありがとうございます。間違いないです。」
「それでは受け取りのサインをお願い致します。」
サインをして箱を二つ受け取る。
隣で固まっている夏月に、「はい。」と箱を渡す。
「え…、あ……?」
「誕生日プレゼント。遅くなってごめん。オーダーメイドだから時間掛かっちゃって、どうせなら記念日に渡したいなーと思って。俺の誕生日と被っちまったけど…。」
「嘘…?え?本当に…?」
「なんで嘘つくんだよ(笑)バングルの内側見てみ?」
夏月は慌てて箱を開けて、バングルを手に取って内側を確認する。
嬉しそうに表情を変える夏月が可愛くて、俺も嬉しくなった。
「綾人さんっ!一生大切にします!!」
「バカ。店内で騒ぐな。」
「だってぇ〜……。嬉しい………。」
「前にあげた時計とも合うデザインにしたから。よかったら付けて?」
「当たり前です!!合わなくても付けます!!」
人目も憚らず抱きついてくる夏月に、今日くらいいいかと俺も抱きしめ返した。
夏月はバングルを俺に渡して腕を突き出す。
「綾人さん、付けて!」
「ん。」
夏月の腕にバングルをはめてやると、それはそれは嬉しそうに口元を綻ばせる。
「綾人さんのは俺が付ける!」と俺の箱からバングルを取り出して、俺の腕に付けてくれた。
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