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第945話

店を出た後、次は俺が驚かされる番だった。 夏月のあとに続いて到着したのは、前にも夏月と泊まったことのある有名ホテル。 そこのホテルディナーだったらしい。 「夏月…、おまえまた…」 「文句は受け付けませんっ!行きますよ♪」 手を引かれてエレベーターに乗り、たちまちはるか上空へ。 街が小さくなっていく。 「お待ちしておりました。お名前頂戴してもよろしいでしょうか。」 「18時から予約している城崎です。」 「ご用意できております。こちらへどうぞ。」 すぐに席に通される。 窓際の見晴らしの良い景色。 ちょうど陽が沈んで、街に光が灯り始める時間だ。 「お飲み物はいかが致しましょう?」 スタッフにそう聞かれ、ソフトドリンクの欄を見つめる。 夏月は俺の視線に気付いて、アルコールの方を指さした。 「好きなの頼んでいいよ。」 「いいの?」 「うん。綾人さんの飲みたいもの選んで?」 とは言われたものの、種類が多すぎて決められない。 何が合うのか、どれが美味しいのか。 見たことない名前も並んでるし、これで実は度数高すぎましたとか、料理と相性悪いとかだったら進まなさそうだし…。 「すみません。今日のコースに合うワインってどれになりますか?」 「本日のコースでしたら、こちらか……」 俺はメニューを見て固まっていたのに、夏月はスタッフに質問しながらワインを選んでいく。 「綾人さんもこれでいい?」 「う、うん!」 「すみません。これ2つで。」 夏月はメニュー表を返すと同時に注文した。 スマートだ…。 そのあと食前酒、アミューズから提供され、オードブルから順に料理が運ばれてきて、メインディッシュが来る頃には、外は綺麗な夜景が広がっていた。 酔いがいい感じに回って、目の前で綺麗な所作で飯を食う夏月がめちゃくちゃ格好良く見える…。 「今渡せばよかったなぁ…。」 「え?」 「バングル…。ムードもクソもなかったろ…。」 「そんな!すっごく嬉しかったです!!」 多分夏月の言葉は嘘なんてない。 でも、こんなロマンチックなことしてくれてばかりの夏月に、俺は同じくらいの喜びを返せているのだろうか? 「いつかやるからさ…、残しておけよ…。」 「……?」 「左手の薬指…。俺のもんだからな…。」 「へっ?!!」 さっきまで綺麗に食べてた夏月が、動揺してガシャンッと物音を立てた。 顔を赤くしながら、周りにすみませんと謝っている。 ふふっ…、こんなことで動揺してさー…。 かわいー……。 「夏月ぃ…、好きだよ……。」 「も、もう!酔ってるんですか?」 「思ってること口からぼろぼろ出てくるくらいには酔ってるかもなぁ…。」 「あー……。早く抱きたい……。」 夏月は小さな声で何かつぶやいた。 魚、ソルベ、肉と続き、そのあとチーズが出てきた時にはまた少しお酒が進んでしまう。 デザートが来たとき、俺はうとうとと目を閉じかけていた。 「すみません。部屋ってもう準備できてますか?」 「はい。こちらがお部屋のカードキーになります。カフェの方はいかがなさいますか?」 「彼がもう限界そうなので、もう部屋に向かいます。お料理美味しかったです。ご馳走様でした。」 頭をふわっと撫でられ顔を上げると、夏月が俺の隣に立っていた。 「ほら、行きますよ。」 「どこに…?」 「ホテルの部屋取ってますから。ここで寝ちゃダメです。」 「うーん…。」 夏月に肩を抱かれ、レストランを後にした。

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