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第958話
いつも通りの業務に加え、出張に向けての資料整理や相手企業の情報収集。
少し残業した日もあったけど、なんとか週末を迎える。
夏月も疲れてるはずなのに、なぜか凄くご機嫌だ。
「なんでそんな元気なんだよ…。」
「だって来週末は綾人さんと大阪デートですっ♡」
ほんとにそれを原動力として頑張っているようだから、これ以上は何も言うまい。
飲むのが最後になるかもしれない抗不安薬を口に入れる。
今日の受診で薬は終わるかもって言ってたしな。
「夏月、そろそろ病院行かなきゃなんだけど。」
「はーい♡」
「先生の前でそんなデレデレした顔すんなよな。」
「善処しまーす。」
服を着替えて外に出る。
今日はお揃いの時計とバングルを付けた。
休みの日は普段我慢してるご褒美に、こうしてカップルっぽいことをしたくなる。
「綾人さん、手ぇ繋ご。」
「うん…///」
夏月の手元をちらちら見ていると、夏月はそれに気づいて手を差し出してくれた。
繋がれた手は温かくて優しくて、どうしようもなく嬉しくなる。
「やっぱりお揃い良いですね。これめちゃくちゃ恋人っぽくないですか?」
「うん。嬉しい…。」
「………綾人さん、ちょっとだけ真剣な話してもいい?」
「うん…?」
夏月は足を止めて、俺の目をじっと見つめた。
急になんだろう…?
何を言われるのかと構えていると、夏月は俺の手を両手で握って、まっすぐに俺を見つめて口を開いた。
「俺ね、綾人さんと付き合ってること、会社にもちゃんと報告したい。」
「………。」
「勿論今すぐにって訳じゃなくて…。俺、いつかは綾人さんと籍入れたいと思ってて、だから…」
夏月の言いたいことは分かった。
結婚したら、戸籍とかの関係で会社に報告するのは常識だ。
俺が会社では隠してるから、不安に思ったのだろうか?
「俺も。夏月と同じ名字になりたいよ。」
「…!!」
「でも、正直まだ会社に言うのはちょっと怖い…。心の準備できてない。」
「待ちます…!何年でも、何十年でも…。ずっとずっとそばにいる…。」
「うん。俺もずっとそばにいる。」
ぎゅっと抱きしめられて、俺も夏月を抱きしめる。
しばらく立ち止まってて、時計を見てハッとしてまた歩みを進めた。
「でも、なんで突然そんなこと言い出したんだよ?」
「ごめんなさい…。なんだか普段はこうやって周りに分かるくらいに恋人っぽいことしてても平気になったのに、会社では先輩後輩の関係を徹底してるから…。」
「あぁ…。まぁ仕事だからな。私情は持ち込むべきじゃないだろ。」
「やっぱり綾人さんは大人です…。あー……。俺子どもっぽかった?ダサいよなぁ…。」
「ううん。真剣に考えてくれてるの分かって嬉しいよ?」
「あぁ〜……。綾人さん、大好き……。」
少し完璧じゃない方が人間らしくていいじゃん。
そう言うと、夏月はホッとしたように笑った。
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