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第962話
週末が明け、出張前の詰め込みは凄かった。
やっぱり上もこの相手とどうしても取引したいらしく、どこまでなら譲歩してもいいやら、ここだけは譲らないでほしいやらと細かく条件をおろしてきた。
夏月は聞いているのか聞いていないのか、「はーい。」と気の抜けた生返事ばかり。
夏月の腕を見込んで選んだのだと思うが、俺が手綱を握っておけと念押しされた。
そして出張当日、今日に至る。
「綾人さんっ♡準備できた〜?」
「うん。……なぁ、その気の抜けた笑顔やめろ。」
「綾人さんと旅行だもん♪」
「だから出張だってば…。行くぞ。」
「待って〜。キスしてから♡」
ドアを開けようとすると抱き寄せられ、朝から濃厚なキスをお見舞いされる。
今日が不安なような、不安じゃないような…。
この様子だと、夏月は余裕なんだろうか…。
新幹線に揺られながら、大阪の話を聞く。
前の夏月の出張は俺と距離を置いている時で、そのときも出先は大阪。
ちゅんちゅんがいろいろうるさかったという話だったな。
そういえば一昨日もちゅんちゅんが「大阪のことなら俺になんでも聞いてくださいっ!」とか誇らしげに言ってたっけ。
「綾人さん、パソコンばっかり。」
「プレゼンの最終確認だよ。」
「真面目だなぁ。まぁ、そーいうとこも好きだけど。」
キスもできない、手も繋げない状況だからか、夏月はつまんなさそうに俺の太腿に手を置いていた。
ブランケットをかけておけば周りから見えないし、大人しくしてるならと好きにさせていると、どんどん際どいところに手が移動していく。
「おい…。」
「ん〜?」
「動かすな。」
「じゃあかまってよ。」
夏月はぷくっと頬を膨らませて俺を見つめる。
あざとい女かよ。
ため息をつき、一旦パソコンを閉じて夏月を見つめ返す。
「失敗したくないんだよ。」
「大丈夫ですよ。」
「俺はお前と違ってそんなに優秀じゃないし、メンタルも強くない。」
「でも今回のプレゼンって俺がメインですよね?俺じゃ頼りない?」
「夏月が頼りないわけじゃなくて、何かあった時に助けられなきゃ俺が来た意味ないだろ。」
「俺の頑張る源になります。意味しかないです。」
ダメだこりゃ。
説得を諦めてパソコンを開いて作業を再開すると、夏月はムスッとご機嫌斜めになりながら、俺の足を触って発散させていた。
あと45分ほどで大阪に着く。
着いたら昼ごはん食べて、午後から相手先へ伺ってプレゼンの時間をもらっている。
上手くいけばそのまま夕食に誘って盛り上げてこいと言われてるし…。
明日は明日で、ついでに色々リサーチしてこいとお達しが…。
二日間丸々仕事が詰まっているのに、どこをどう解釈すれば大阪旅行になるのか、夏月の思考が理解できないでいた。
まぁ結局、一日延ばして最終日は二人で観光するんだけどさ…。
「明日回る会社のリストアップってしてくれてるんだっけ?」
「はい。バッチリです。」
「見せて。」
「どうぞ。」
「ありがと。」
夏月から資料を預かり、リストに目を通す。
仕事が早いだけでなく、夏月の作った資料は全て分かりやすい。
才能だな…。
プレゼンの確認や二日目のリスト確認をしていたら、あっという間に大阪に着いてしまった。
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