969 / 1069

第969話

「……ん……、て……」 夏月……。 行かないで…。 「………とさん……、……きて……」 「夏月……」 夏月が遠くなっていく。 手を伸ばしても届かなくて…。 嫌だ。 夏月、行かないで。 離れたくない…。 「綾人さんっ、起きて!」 「はっ…!!」 夏月の声で目を覚ます。 今のは夢…? ………って、もう8時!!? 「仕事…っ!」 「大丈夫。9時に出れば間に合います。」 「あ……、そっか…。」 出張中だ。 はぁ…、嫌な夢見た……。 夏月が離れていく夢……。 夏月のシャツの袖を掴むと、優しく抱きしめられた。 「夏月…、昨日は……」 「ごめんなさい。」 「へ…?」 顔を上げると、夏月は眉を下げて俺を見つめていた。 「昨日、寂しい思いさせてすみませんでした。」 「いや…、俺の方こそ…。ごめん…。」 「ううん。飲み過ぎてあんなことになるなんて、人のこと言えないですよね…。ごめんなさい。許してほしい。」 許してほしいって…。 それはこっちの台詞なのに…。 「朝起きたら綾人さんが隣にいなくてゾッとした。喧嘩とかしたくない。許してくれますか…?」 「許すも何も…。俺が癇癪起こしただけっていうか…。」 「じゃあ許してくれるってこと?ねぇ、綾人さん。やっぱり今夜リベンジしたい。綾人さんのこと愛したい。いい?」 「…っ///………い、ぃ…けど…。」 「やった!!今日も頑張ります!!」 夏月はフンっと息を荒げ、腕まくりをした。 何をだよ…。 仕事…だよな…? でも昨日の夜や夢で溜まっていた不安がスッと消えていく。 「夏月…、愛してる…。」 「っ!!綾人さんっ?!」 腰に抱きつくと、夏月は驚いて固まった。 好きだ。 やっぱり一人で眠るのは寂しい。 ずっと隣にいてほしい。 「キスしていいですか…?」 夏月は俺の頬を撫でながら、目をじっと見つめた。 俺は目を閉じて、唇を差し出した。 柔らかい唇が重なり、離れて、また重なる。 「綾人さん…、愛してるよ。」 「お…れも…。」 舌を絡め合い、キスはどんどん深くなっていった。 夢中になっていると、夏月のスマホのアラームが鳴る。 出発10分前だ。 俺と夏月は慌ててスーツに着替え、ホテルを後にした。

ともだちにシェアしよう!