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第973話
古びた動物園だけど、土曜日だからか家族客もちらほらいた。
カップルはそんなにいない…かな?
昔は子ども用の遊び場を設けていたのか、もう動かない錆びれた遊具もあった。
「綾人さん、何から見ますか?やっぱりライオン?それともシロクマ?キリン?」
「ふれあいコーナーだろ。」
「ぶはっ…!そうですね、行きましょう!」
ふれあいコーナーに行くと、カピバラやウサギ、ハムスター、あとはヤギやロバなんがいたりして、俺は主に小動物に餌をやっていた。
夏月はずっとカメラを構えて俺を見てる。
「綾人さん可愛い……。」
「夏月は触んないの?」
「俺は綾人さんを撮ってるので!」
「あっそ…。」
どうせなら一緒に楽しんでほしいのに…。
拗ねてるのがバレないように背を向けてウサギと戯れていると、ウサギたちが一斉に俺の右側へ寄っていく。
「やっぱり俺も触ろうかな?」
「おまえ、ウサギにもモテんのかよ……。」
「へ?」
右隣に夏月がしゃがみ、ウサギはわらわらと夏月に群がった。
ウサギもイケメンが好きなのか…。
そうかそうか。でも、そいつは俺の彼氏なんだよ。
「譲らないからな。」
「何?ウサギに張り合ってるの?」
「ウサギ可愛いから。夏月取られたら困る。」
「何それ。綾人さん選ぶに決まってるでしょ(笑)」
ふと夏月の足元を見ると、夏月のお気に入りのズボンが目に入る。
あぁ、そっか。今日デートだから、お気に入りの服着てくれてたんだ…。
きっと汚したくなかったのもあるんだろうな…。
なのに、俺のこと気にして来てくれたんだよな、きっと…。
顔を上げると、夏月はウサギじゃなくて俺を見ていた。
吸い込まれるように夏月と唇を重ねる。
「……っ、いいの?」
「誰もいねぇし…。」
「ふっ…、あはは!それにしても、ムードなさすぎですよ。」
「そう?」
「うん。獣臭いしウンチ臭い。」
「ぷっ!たしかに…。」
笑い合っていると他のお客さんが来たから、俺と夏月はふれあいコーナーを後にした。
そのあとはライオンやカバ、キリン、シロクマなど、色々見て回った。
動物は案外活動時間が短いらしく、昼下がりのこの時間は外に出ていない動物もちらほらいた。
「意外と楽しかったですね。」
「そうだな。なんか懐かしい気分になった。」
「綾人さんにウサギのコスプレしてほしくなりました。」
「それは意味わかんねーけど。」
「今月のハロウィンの衣装にどうですかね?」
「………考えとく。」
自分では絶対用意しないけど。
用意してくれるなら着てもいい……かな?
夏月が喜んでくれること大前提だけど。
「そろそろどて焼き食べに行かないと、お土産買う時間考えたら新幹線間に合わない。」
「あ。本当だ。行きましょう、綾人さん!」
夏月に手を引かれ、新世界にある人気のどて焼きを食べて、目的のお土産を買い回ってから新大阪駅に戻った。
帰りの新幹線では爆睡してしまい、気づいたら東京に着いていた。
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