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第977話

服の袖に手を通し、ブランケットを肩にかけてリビングへ向かうと、夏月は俺を見てニコッと笑った。 いい匂い…。 「綾人さん、なんだか事後みたい♡」 「………。」 その通りだよ。 つーか、知ってるだろ。相手おまえなんだから。 「お腹いっぱい食べてくださいね。」 「ん。いただきます。」 「……あ、やっぱだめ。」 「は?」 「お腹いっぱいはダメ。今日は透さんたちにお土産持って行くから、俺らもスイーツ切り分けてもらうんです。」 あぁ、なるほどな。 大阪で目ぼしいスイーツ買って帰ってきたんだった。 スイーツだから早く渡さないといけないもんな。 「美味しい紅茶も買って行きましょう。」 「うん。楽しみだな。」 「あ〜……、綾人さん可愛い……。」 「急になんだよ?」 食べてる姿も事後もいつも見てるくせに、何顔赤くしてんだ…? 夏月の表情や言動を不思議に思いながら、身なりを整えるために洗面所に行くと、自分の首元を見てギョッとした。 「夏月!!!」 「あ〜、バレちゃった?」 「バレちゃった?じゃねぇよ!!これ明日までに消えないじゃんか!!!」 首筋から鎖骨にかけて、びっしりと付けられたキスマーク。 それどころか服を捲ると、そこかしこが紅く色付いていた。 「綾人さんは俺のものなんだなぁって思うと、たくさん印つけたくなっちゃうんですよね〜…。」 「どうすんだよ、これ…。」 「もう虫刺されの時期じゃないですもんね。少し寒くなってきたし、マフラーとか巻いてみる?」 「マフラーはどう考えても早いだろ。逆に疑われる。」 明日までになんとかできなければ、イジられることと、バレたら上司に怒られることは確定した。 外回りだったら怒られるどころじゃなかった。 「本当にどうしよう…、これ…。」 「まぁとりあえず、今日は透さんのとこだし。」 「おまえ他人事だからってなぁ…。」 「他人事じゃないです♡綾人さんの悩みは俺の悩みだもん♡」 「じゃあ真剣に考えろ!」 「綾人さんも俺に付けたら解決する?」 「しないだろ!!」 絶対他人事じゃん。 ふざけてばかりの夏月を無視して、出掛ける準備をする。 今日いじられることは確定事項だし、もうどうしようもない。 「綾人さん、付けてくれないの?」 「解決しねぇってば。」 「解決とかじゃなくて、つけてほしい。」 夏月は首筋を曝け出して、俺に差し出した。 綺麗な喉仏……、じゃなくて! 「付けない!」 「なんで〜。」 「おまえまで明日噂になったら面倒だろうが。」 「綾人さんだけズルい。」 「俺は今困ってんの!!」 絶対俺の気持ちわかってないじゃん! 内心少し怒りながらも、夏月と手を繋いで家を出た。

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