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第984話

一時間経つのはあっという間で、お(いとま)しようとソファを立つと、何かを察したのか弥彦くんと鈴香ちゃんは俺たちの足に引っ付いた。 「帰るな!!」 「いやぁ〜!綾人、夏月、帰っちゃやだぁ〜!!」 嬉しいわがまま…。 だけど、16時からお客さん来るって言ってたしな…。 「今から近所のお友達来るんでしょ?」 「嫌っ!二人ともいなきゃ嫌っ!!」 ダメだこりゃ。 どうしたものか…。 さすがに弥彦くんの歳になると友達と遊ぶ方が楽しいのか、そこまで駄々は捏ねなかった。 「鈴香、今からゆうくんとなっちゃんが来るのよ。」 「やだぁ〜!!綾人と夏月の方がいい〜!!」 「鈴香……。」 久米さんも困り顔。 ゆうくんってきっと男の子だよな…。 「同世代の友達と仲良くしといた方がいいよ。俺たちは鈴香ちゃんが結婚できる頃にはおじさんなんだから。」 「アイドルもおじさんになっても格好良いもん〜!!二人ともアイドルみたいに格好良いからいいの〜!!」 「ははは…。そうだといいんだけど…。」 「なっちゃんとゆうくんに二人のこと自慢するの〜!鈴香の旦那さんになるのって言うの〜!」 「それは困る…かも……。」 将来の相手はもう決めてるし…。 というか、これから鈴香ちゃんのことが好きな男の子に目の敵にされちゃうんじゃ…? 夏月相手じゃ、子どもだろうとみんな絶望しちゃうだろ…。 「鈴香!いい加減にしなさい!!」 「うわぁぁぁぁん!!!」 「迷惑かけないって約束したでしょ!ほら、さっさと写真撮ってバイバイするよ!鈴香そんな泣き腫らした顔でいいの?!」 「嫌だぁ。……ヒクッ、泣き止むから待って……。」 母は強し。 鈴香ちゃんもすごい。 すぐに涙を止めて、いつもの可愛い笑顔に変わった。 将来は大物女優か…? 「撮るよー。はい、チーズ!」 久米さんに写真を撮ってもらい、俺たちは一足先に帰ることになった。 鈴香ちゃんにズボンを引っ張られる。 「また来てね…。」 「うん。また会おうね。納涼会、来年は行くね。」 「約束?」 「うん。」 ゆびきりげんまんして、俺と夏月は帰路についた。 帰り道、夏月は何だかソワソワしていた。 手を繋いでみると、ビクッと反応したあと、ぎゅっと強く握りしめてくる。 「どうした?」 「綾人さん…」 「ん?」 「俺のわがままも聞いてくれますか…?」 わがまま…? 「夏月のお願いなら、俺が叶えてやれる範囲で聞いてあげたいけど…。」 「やれます!聞いてください!!」 「おぉ…。勢いすげーな…。」 どんなわがままか分からないけど、こんなに食いつくって…。 喜んでくれるならいい…よな……? 「俺…、俺今日…、綾人さんのことヤリ殺しちゃうかも…」 「へ??」 「ごめんなさい!早く帰りましょう!!」 「え?は?」 腕を引かれて家に一直線。 マズい。今頃思い出した…。 夜は覚悟しとけって、そう言われてたんだった……。 サッと血の気が引いたけど、腕を引かれてズルズルと家に連行された。

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