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第990話
「おはよーございますっ!」
「ぉわっ?!」
会社に着いて早々ちゅんちゅんの突撃を喰らい、腰にビキっと痛みが走る。
夏月が支えてくれなきゃ、そのまま崩れ落ちるところだった…。
ちゅんちゅんは夏月に睨まれてしょんぼりしていた。
「綾人さん、今日はできる限り席から立っちゃダメです!」
「いや…。ずっと座りっぱなしも腰痛いんだけど…。」
「うぅ…。じゃあ適度には動いていいです。」
「そう言ってくれると助かる。」
夏月は午前中からアポがあるらしく、とても行きたくなさそうな顔で出発した。
俺は時々腰を叩きながら、パソコンと睨めっこ。
みんな帰ってくるまでに、ある程度終わらせときたいしな…。
「主任、今よろしいですか?」
「え、あ…。蛇目は残ってたのか。」
「私は午後から約束してますので、午前中はデスクワークですよ。」
「そっか。……で、何か用?」
「ええ。ここなんですけど、少し相談したくて…」
蛇目から資料を受け取り、相談を聞く。
ちゃんと真面目な仕事の相談。
仕事の相談だからこそ、俺も真摯に対応した。
「こことかこうすれば……」
「あぁ、なるほど…。いいですね。……あ、主任。ここって……」
蛇目は俺の右後ろから、画面を指差すために手を伸ばした。
ふわっと漂う蛇目の香水の匂い。
ふと顔を上げると、キスできそうなほど近くに蛇目の顔があって、目が合った瞬間お互い顔を逸らした。
「わ、悪い…っ!」
「私こそすみません…。無意識に近すぎましたね…。」
「いや、俺のほうこそ……」
あれ……?
なんか頭くらくらする……。
「主任……?」
顔を手で押さえていると、蛇目が心配そうな顔で覗き込んできた。
ダメだダメだ…。
仕事中なんだから集中しないと……。
「あ……、えと、ごめん。何……?」
「もしかして、体調悪いですか?」
「なんで……?」
「朝からなんだか色っぽいなとは思ってたんですが、なんとなく顔色が……」
「………だいじょーぶ…。」
ただいつもより体が怠くて、なんとなく体が熱ってるような気がするだけ…。
大丈夫、大丈夫…。
水分が足りてないだけで、別にどうもないはず…。
大丈夫だ。水飲めばきっと治る。
「ちょっと水飲んでくる……。」
「あ!主任っ!!」
あぁ、最悪だ……。
職場で倒れるなんて。
それも夏月がいないときに。
朝からちゃんと夏月の言うこと聞いてればよかったんだ。
ごめんな、夏月……。
言うこと聞かない馬鹿な恋人でごめん……。
いつもと違う匂いに包まれて、スッと意識を飛ばした。
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