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第991話

…………やと…さ…… ……あ………とさ…… 「綾人さんっ!!綾人さんっ!!!」 「な……つき……?」 「よかったぁ…!!!」 呼ばれてる気がして目を開けると、泣きそうな顔の夏月がいた。 俺の右手を両手で握りしめて、もしかして起きるまでそばにいてくれたのか…? 「悪い……。」 「心配した!戻ってきたら部署内騒ついてて、何かと思って聞いたら綾人さんが倒れたって…。もう俺頭真っ白になって……」 「ごめん…。心配してくれてありがとう。」 抱きしめると、強い力で抱きしめ返される。 つーか、ここどこ? 家ではないし、職場…? 「夏月、ここって…」 「医務室です。」 「え。ちょ…、ま…っ!?」 「焦らなくて大丈夫ですよ。今先生は席外してて、俺と二人きりですから。」 職場で名前呼び合って抱きしめ合ってる状況に焦ったけど、二人きりならいいのか…? 抵抗をやめて、もう一度夏月の胸の中に収まる。 「結構働いて長いのに、医務室なんて初めて来た…。」 「倒れたの俺のせいですよね…。」 「なんで?俺が夏月の言うこと聞かなかったから…」 「元はと言えば、俺が仕事前日に抱き潰したから…。無茶させてすみませんでした。」 チュッ…と何度も唇を重ねていると、ガラガラッとドアが開いた音がして慌てて体を離す。 現れたのは優しそうなおじいちゃん先生。 通りで。 若い女医とかだったら医務室が有名になって、知らないはずないだろうしな。 「ご迷惑おかけしてすみませんでした…。」 「君、ちゃんと寝なさいよ。寝不足とそれが原因の発熱。社会人なんだから体調管理はきちんとしないと。」 「返す言葉もございません…。」 休みの日はちゃんと休まないといけないと、身に染みてよくわかった。 夏月はまだ仕事が残っているからと、部署に戻ることになった。 「先輩はもう少しゆっくりしてて。仕事終わったら迎えにくる。」 「ううん。タクシー使って先に帰ってるよ。」 「待っててください!!約束!!!」 キツく言いつけられて、そのまま行ってしまった。 周りから見れば、ただの先輩後輩の関係であるはずなのに。 夏月って本当隠すの下手だな…。 「君は男にモテるのかい?」 「えっ?!」 「いや、君を連れてきた人も、なんだかすごく焦った顔で連れてきたからね…。今の彼もただの後輩ではなさそうだし、最近の子の恋愛はわからないね…。」 俺を連れてきたって……。 蛇目か? そういえば俺、蛇目の仕事の相談受けてる最中に倒れたんだっけ? 心配かけてたら申し訳ないな…。 ベッドを借りてうとうとしていると、部長が様子を見にきた。 「望月、大丈夫か?」 「はい。ご迷惑おかけしてすみません…。」 「今日は帰りなさい。」 「でも、まだ仕事が…」 「いいんだ。体は資本。大事にしてくれ。」 部長は俺のデスクから鞄を取ってきてくれたようで、それを預かってお礼を言った。 ベッドから降りて帰り支度をする。 「俺、帰ります。」 「彼は待たなくていいのかい?」 「ただの後輩なので。」 わざわざ会うこともない医師に俺たちが付き合っていることを悟られるメリットはない。 頭を下げて医務室を後にした。

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