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第992話
家に帰って、すぐにベッドで寝た。
熱は37.9度。
通りで怠いわけだ。
寝不足による熱と言っていたから、寝れば全部解決するはずだ。
俺が目を覚ましたのは、夏月が帰ってきた時だった。
「綾人さんの嘘つき!約束守ってよ!!」
「悪い。関係がバレそうだったから。」
「うぅ〜……。」
夏月は俺をぎゅうぎゅう抱きしめて、何度もキスをくり返した。
おでことおでこをくっつけて、安心したように笑う。
「熱は下がったみたいですね。よかった。」
「心配かけて悪かった。」
「これからは仕事の前日はどれだけ抱きたくてもセーブします…。」
「ん…。」
夏月と目が合う。
物欲しそうに俺を映す瞳。
別に我慢なんかしなくてもいい。
そりゃ、多少の我慢はいるのかもしれないけど…。
でも俺だって夏月に触れたい。
夏月と愛し合いたい。
「夏月……」
「ん?」
「抱いて……?」
背伸びして唇にキスをすると、夏月は俺を見てわなわなと震えていた。
「なっ…?!!バカ!俺のこと試してるんですかっ?!」
「ち、違う!本当にそう思ったから…」
「ダメ!俺はそんな一瞬で約束破る男じゃないから!!それに寝不足で倒れたくせに、今日も寝られなかったら本当に馬鹿ですからね!!」
「………ケチ。」
「はぁ?!」
どうやら今日は本当にしないらしい。
むぅ…。
俺はちょっとその気になっちゃったのに…。
「じゃあ萎える話して。」
「萎える話って……。あ………。」
「ん?何?」
「俺、来月…というか来週末、また大阪出張らしくて…。」
「え?」
「契約のことでもう一度話を聞きたいって。今回は俺一人で行くことになりました…。」
萎えた。
見事に萎える話持ってきた、こいつ…。
しかも嘘じゃなさそうだし…。
「俺のこと、一人にすんの…?」
「ああああああああ!!!可愛い!!揺らぐ!!!つーか、行かない!!!綾人さん取るに決まってるでしょ!!」
「嘘だよ。いってらっしゃい。」
「急に薄情!さっきの甘えたな綾人さんを返して!!」
夏月はすりすりと俺の頬に頬擦りする。
寂しいのは本当なんだけど…。
でも、夏月の昇進の邪魔したくない。
「すぐ帰ってくる?」
「一泊二日ですけど、終わり次第すぐに戻ります!」
「よかった…。」
長かったら寂しくて死ぬとこだった。
夏月は出張中なのに帰ってきてくれるくらい、俺に何かあったら必死だもん。
だから夏月が無理しないように、俺が頑張らないと…。
「いい話題はないのか?」
「ん〜……。あ。社員旅行のお知らせやっと来ました。」
「へぇ。いつ?」
「11月14日から一泊二日、京都らしいです。」
「は?!再来週じゃん!」
「お知らせ忘れてたらしいですよ。まぁどうせ出勤日だし予定なんてないからみんな行くんじゃないですか?参加の締切今週中だって。」
「急だな、マジで。」
去年は沖縄、今年は京都。
多分例年と同じく、今年も自由行動だろう。
「どこ回るか決めねーとな。」
「そうですね!あれしたいです!」
「どれ?」
「あの、着物で散策!綾人さんと着物着て歩きたい!」
「若いなぁ。」
出張は寂しいけど、その後に構えている社員旅行に、さっきまで沈んでいた気分がまた浮上した。
翌日の帰りに夏月と書店で京都の観光ガイドを買って予定を立て、より一層社員旅行が楽しみになった。
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