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第993話

社員旅行の参加が締め切られ、翌週の水曜日。 いよいよ部屋割りが発表された。 「城崎、一緒だったな。よかった……?」 「〜〜〜っ」 部屋割りを見て、夏月と一緒だったから安心して顔を上げると、夏月は絶望した表情をしていた。 同室者は俺と夏月と、そして蛇目と蛙石。 確かに素直に喜ぶことはできないような…。 「ふふ。お二人も一緒でしたね。」 蛇目が寄ってきて、嬉しそうな顔で俺の肩を抱いた。 夏月は鬼のような形相で蛇目の手を振り払う。 「俺、部長に直談判してきます。」 「なんて言う気だよ。」 「あいつは危険だから綾人さんに近づけんなって言う!!!」 「通る気がしねぇけど。つーか、絶対部長の前で名前呼びすんなよ?」 今の夏月を止められる気はしなかったから、最低限の注意だけして送り出した。 危険って……。 いや、実際危険なんだけど、部長からすれば何が?って感じだよな…。 「私の初めての社員旅行ですから、部長が気を利かせて主任と同じ部屋にしてくださったんですよ。」 「へぇ。」 「城崎くんは去年部屋割りで揉めたって聞きましたよ。だから今回は主任と同じ部屋にして、部長は上手くできたってドヤ顔してたんですけどね。」 「おまえが何もしなけりゃ、城崎だって怒んねぇよ。」 「ん〜…、それは保証できないですね。」 部長に文句を言いに行った夏月を見送りながら、蛇目と話す。 仕事できて、気が利いて…、こいつだって変なことしなけりゃ悪い奴じゃねぇんだけど…。 こいつと二人になると、ろくなことがなかったからな…。 「あ。帰ってきましたよ。」 「あの顔は通らなかったんだろうなぁ。」 「ふふ。じゃあ私はそろそろ業務に戻りますね。」 蛇目は一足先にデスクに行ってしまった。 夏月はムスーっと不貞腐れた顔をして戻ってきて、俺の手を握る。 俺から聞いた方がいいのか…? 「城崎、どうだった?」 「通んなかった…。」 「そっか。」 やっぱり通らなかったんだ。 まぁ俺としては、夏月がそばにいるなら安心なんだけど。 「部長、先輩の顔があいつの好みだって噂知らないんですよ。だから教えてやったのに、男が好きって言っても望月も男なんだから自衛できるだろって…。」 「まぁそれはそうだけど…。」 「できないでしょ!!実際何回かあいつに変なことされてるじゃん!!俺全部覚えてますからね!!」 逆に怒らせてしまった。 でも部屋割りはどうしようもないしな…。 「城崎が俺のこと守ってくれるだろ?」 「当たり前じゃん!!」 「じゃあ大丈夫。さすがに蛙石もいるし、あいつも手は出してこないだろ。」 「………わかった。」 納得はしてなさそうだけど、何とか折れてくれた。 部屋はちょっと問題ありかもだけど、京都旅行楽しみだな…。 明日から夏月は出張だし、できるだけ不安は取り除いてやりたい。 俺も離れてる間、喧嘩は嫌だし…。 「城崎、今日は出張に使う資料の確認だろ?手伝うよ。」 「ありがとうございます!先輩と仕事嬉しい…。」 少しだけ機嫌を取り戻した夏月は、きちんと明日の用意を終わらせた。

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