993 / 1069
第993話
社員旅行の参加が締め切られ、翌週の水曜日。
いよいよ部屋割りが発表された。
「城崎、一緒だったな。よかった……?」
「〜〜〜っ」
部屋割りを見て、夏月と一緒だったから安心して顔を上げると、夏月は絶望した表情をしていた。
同室者は俺と夏月と、そして蛇目と蛙石。
確かに素直に喜ぶことはできないような…。
「ふふ。お二人も一緒でしたね。」
蛇目が寄ってきて、嬉しそうな顔で俺の肩を抱いた。
夏月は鬼のような形相で蛇目の手を振り払う。
「俺、部長に直談判してきます。」
「なんて言う気だよ。」
「あいつは危険だから綾人さんに近づけんなって言う!!!」
「通る気がしねぇけど。つーか、絶対部長の前で名前呼びすんなよ?」
今の夏月を止められる気はしなかったから、最低限の注意だけして送り出した。
危険って……。
いや、実際危険なんだけど、部長からすれば何が?って感じだよな…。
「私の初めての社員旅行ですから、部長が気を利かせて主任と同じ部屋にしてくださったんですよ。」
「へぇ。」
「城崎くんは去年部屋割りで揉めたって聞きましたよ。だから今回は主任と同じ部屋にして、部長は上手くできたってドヤ顔してたんですけどね。」
「おまえが何もしなけりゃ、城崎だって怒んねぇよ。」
「ん〜…、それは保証できないですね。」
部長に文句を言いに行った夏月を見送りながら、蛇目と話す。
仕事できて、気が利いて…、こいつだって変なことしなけりゃ悪い奴じゃねぇんだけど…。
こいつと二人になると、ろくなことがなかったからな…。
「あ。帰ってきましたよ。」
「あの顔は通らなかったんだろうなぁ。」
「ふふ。じゃあ私はそろそろ業務に戻りますね。」
蛇目は一足先にデスクに行ってしまった。
夏月はムスーっと不貞腐れた顔をして戻ってきて、俺の手を握る。
俺から聞いた方がいいのか…?
「城崎、どうだった?」
「通んなかった…。」
「そっか。」
やっぱり通らなかったんだ。
まぁ俺としては、夏月がそばにいるなら安心なんだけど。
「部長、先輩の顔があいつの好みだって噂知らないんですよ。だから教えてやったのに、男が好きって言っても望月も男なんだから自衛できるだろって…。」
「まぁそれはそうだけど…。」
「できないでしょ!!実際何回かあいつに変なことされてるじゃん!!俺全部覚えてますからね!!」
逆に怒らせてしまった。
でも部屋割りはどうしようもないしな…。
「城崎が俺のこと守ってくれるだろ?」
「当たり前じゃん!!」
「じゃあ大丈夫。さすがに蛙石もいるし、あいつも手は出してこないだろ。」
「………わかった。」
納得はしてなさそうだけど、何とか折れてくれた。
部屋はちょっと問題ありかもだけど、京都旅行楽しみだな…。
明日から夏月は出張だし、できるだけ不安は取り除いてやりたい。
俺も離れてる間、喧嘩は嫌だし…。
「城崎、今日は出張に使う資料の確認だろ?手伝うよ。」
「ありがとうございます!先輩と仕事嬉しい…。」
少しだけ機嫌を取り戻した夏月は、きちんと明日の用意を終わらせた。
ともだちにシェアしよう!