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第998話

夏月がいなくても、業務はいつも通り開始される。 そりゃそうだ。俺の心の持ちようが違うだけで。 始業時刻とともに業務を開始し、少し隙を見て夏月にメッセージを入れる。 9時過ぎ頃、夏月は大阪に到着したらしい。 あいつ、あんまり寝れてないけど大丈夫かな…? 朝から夏月を呼び出した先方との会議らしい。 夏月なら卒なくこなすんだろうけど…。 会議中なのか、9時半以降夏月からの返信はなくて、俺は約束通り一時間に一回メッセージを送った。 「なーにスマホと睨めっこしてんの。」 「わっ…、涼真??」 「大好きな彼氏がいなくて傷心中?健気に返事待ってんの?」 「うぅ…。悪いかよ…?」 「はは。かわいー。城崎に送ってやろ。」 「あ!ちょっと!!」 パシャッと不意にシャッターを切られた。 送るって…。 そんな不意打ちの写真、絶対映り悪いし!! 「涼真、撮るならちゃんと…」 「あー。もう送っちゃった。」 「はぁっ?!」 「はは。ごめんごめん。」 悪びれもなく謝る涼真を睨みつけて、また業務を再開する。 昼休憩になりスマホを確認するが、まだ返事が来ていないことに落胆した。 食堂まで歩いてる途中、後ろからガッと肩を抱かれた。 「綾人〜、昼一緒食う?」 「あー…、うん。」 「何?返事まだ来ねーの?」 「多分会議が長引いてるんだと思う。見たら返事くれるし……。」 「そうだな。あいつが返事しないわけないし。……お!今日の日替わり、チキン南蛮だ♪」 涼真は券売機で日替わりランチを選んで引き換えに行った。 あんまり食欲わかねぇな…。 うどんでいいか。 「綾人、チキン南蛮食わねーの?」 「うん。あんまり食欲ないし…。」 「城崎いねーと露骨に元気なくなるよな。もしどっちかが転勤とかなったらどうすんだよ?」 「あはは…。笑えない冗談言うなよ……。」 転勤って…。 考えたくもない。夏月と離れるなんて……。 でも、実際そうなってしまったら、俺はどうするんだろう? 俺が打診されたら、きっとどうにかしてでも転勤は断るんだろうな…。 じゃあ夏月が打診されたら…? 俺はあいつのために笑って送り出せるのか? それとも自分のエゴを押し通す…? 「あやと……、おい!綾人!!」 「え…、あっ……」 「ボーッとすんな!後ろ詰まってんぞ!」 考え込んで立ち止まっていたせいで、列が混んでいた。 後ろに軽く謝り、うどんを受け取って席に着く。 「悪かったよ。でもおまえ、可能性はゼロじゃねーよ?もしものときのこと考えてて損はねーだろ。」 「うん…。」 「俺はこれでもお前のためを思って……」 うどんを食べていると、スマホの画面が光る。 夏月からメッセージだ。 『今かけても大丈夫ですか?』 その文章を見て、俺は席を立った。 「え?綾人??」 「悪い!あと食べてて!」 「は?!おい!ほとんど食ってねーじゃん!綾人!!」 涼真の呼び止める声が聞こえたけど、俺は無視して食堂を飛び出した。

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