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第1002話

洗面台にスマホを置いて服を脱いでいると、電話越しにギャーギャーと物申す声が聞こえる。 『綾人さん!見えない!!脱いでるとこ見えないから!!壁にスマホ立てかけて?!ちょっと!!聞いてますか?!』 マジでなんなんだよ…。 ため息をつきながら、スマホを壁に立てかける。 あ…。これ結構恥ずかしいな…。 「やっぱ見ないで……。」 『ええぇ?!ちょ、綾人さん!!見たい!!!』 スマホを伏せると、また夏月の文句が聞こえてくる。 服を全部脱いでから、スマホを持って夏月に話しかける。 「入るよ。」 『え、もう脱ぎ終わったの??』 「うん。」 『なんでぇ…。綾人さんのケチ!見ても減るもんじゃないのに!!』 「俺は常識人だから、こんな高度なプレイは恥ずかしいんだよ。」 『どこが高度なんですか??世の中の遠距離カップルみんなしてるでしょ。』 「いや、してねぇだろ。」 浴室に入って、スマホを立てかけて、体を流してから湯船に浸かる。 あぁ…、今日も疲れた。 夏月がいなかったからか、いつもより長く感じたし…。 画面を見ると、夏月はじっと俺の方を見つめていた。 「会いたいな……。」 『綾人さん…?』 俺は無意識にスマホを手に取り、画面に映る夏月にキスしていた。 唇に触れるのは、いつもと違って冷たくて硬い無機質な感触。 早く…、早く会いたい……。 『綾人さん、どうしたの?寂しい?』 「……うん。」 『急に可愛くなるからびっくりしちゃいました。やっぱり帰ろうか?』 「もう電車ないだろ…。」 『あはは…。そうですね……。』 悲しそうに乾いた笑いをする夏月を見て、きゅっと胸が苦しくなった。 夏月からの申し出を断ったのは俺なのに、今更会いたいだなんて無理言って…。 でも実際、こっちまで帰ってきてたら夏月の時間もお金も奪ってしまう。 だからこれでいいはずなんだ…。 『これから一人で出張があったら、何としてでも日帰りでスケジュール組みますね。』 「うん…。」 『俺も綾人さんがいないと寂しくて死にそう。』 同じ気持ちでいてくれるだけで、俺がどれほど救われるか。 泣きそうになるのをグッと堪える。 いつもならすぐに俺を甘やかしてくれる夏月がそばにいない。 泣いたりなんてしたら、変に心配させてしまう。 「早く明日の夜になってほしいな…。」 『そうですね。早く綾人さんに触れたい。』 「触ってほしい…。」 『……綾人さん、その顔は狡いよ。』 画面の奥で夏月が困ったように笑う。 俺は一体どんな顔をしているんだろう? でも間違いなく、平静は装えていない。 だって、夏月に触れられたくて尻が疼くんだ。 「夏月…っ」 『あーもう…。堪え性がないですね。』 「どう…したらいい…?」 『目瞑って、俺にされてるの想像して触ってみてよ。』 「夏月…、夏月…っ」 湯船の中で尻に指を突っ込みながら、バシャバシャと水音を立てて自慰行為に没頭した。

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