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第1014話

11月14日、晴天。 「うおおおおおおおーーー!!京都ーーーーっっ!!!」 「ちゅんちゅん、煩い。」 相変わらず元気なちゅんちゅん。 もう慣れて対応が雑な涼真。 俺は新幹線の中で夏月にもたれながらほとんど寝ていて、夏月も昨日嫌がっていた割には笑顔だ。 「夕食は会席料理なんだって。楽しみだな。」 「綾人さん可愛い…♡」 「みんなの前では名前呼び禁止だってば。」 「はぁい。」 癖で下の名前で呼んでくるから、こそっと注意すると、夏月は少し口を尖らせて返事した。 「じゃあ今年も各々楽しんで。旅館は15時以降ならチェックインできるからなー。では、解散!」 この制度、本当に自由すぎるけど、ぼっちの人は辛いだろうな…。 そんなことを思っていると、案の定ぼっちが…。 「蛙石、一人なの?」 「望月主任っ!あっ…、いや…、えっと…」 「先輩、行きましょうよ。」 「おまえな…。新人だぞ?」 「もう11月だから新人は卒業でしょ。コミュニケーション能力向上のためにご自身で頑張ってくださーい。……はい、先輩行きましょ♡」 「おい……」 明らかにシュン…とする蛙石。 せっかく初めての社員旅行なのに、一人ぼっちなんてトラウマになっちまわないかな…。 「蛙石、同期は?」 「同期…とは……、そんな上手く関係築けてなくて…」 「先輩〜〜!早く行こ!!」 「でも…」 「でもじゃない。今日は一緒に着物着て散策しよって言ったじゃん!」 夏月と二人で回りたい気持ちはある。 というか、そのつもりしかなかったけど…。 でもこれじゃ、蛙石があまりにも……。 「一緒に回るか…?」 「いいんですかっ?!」 「ちょっ?!先輩?!!」 思わず誘ってしまった。 だってもし俺が一年目で、周りと関係を築けないまま事前情報なしで社員旅行に来て、『自由行動です、サヨナラ!』なんて言われたら泣くぞ。 夏月はすげー不服そうだけど…。 バス停に行こうとすると、夏月は俺の袖を引っ張って、小さな声で尋ねる。 「本当に一緒に行くんですか…。」 「悪い…。だって可哀想だから…。せっかく初めての社員旅行、いい思い出にしてやりたいじゃん。」 「綾人さんは人が良すぎるんですよ。友達いないのだって自業自得じゃないですか?あーもう…。綾人さんと二人でデートのはずだったのに……。」 明らかにテンションが下がってしまった夏月を宥めながら、蛙石も含めた三人で清水寺行のバス停に向かった。 バス停で涼真とちゅんちゅんに出会う。 「あれ?二人じゃねーの?」 「あー…。ちょっと色々あって……。」 蛙石がぼっちだから、とは言いづらくて濁すと、涼真は「あぁっ!」と察したようにジェスチャーした。 「蛙石がぼっちなのか!」 「「「…………」」」 あえて言わなかったのに。 すげー気まずい空気になっちゃったじゃん。 久々だよ、涼真の空気読めない感じ。 「つーかさ、どうせ二人じゃないなら一緒に回らね?俺も今年ちゅんちゅんと二人なんだよなー。」 「なんすかそれ!俺が嫌みたいに!」 「おまえと二人は疲れんだよ。」 「あー……。」 二人には悪いけど、これ以上人数増えたら夏月の機嫌が…。 そう思って断ろうとすると、夏月は涼真と手をガシッと掴んだ。 「是非一緒に回りましょう。」 「マジ?やったー!」 「え?」 夏月??? 夏月のためを思って断ろうとしたのに、どういうことだ? もしかして、二人じゃないからもうどうでもいいのか? 夏月の思考が読めないまま、京都旅行1日目が始まった。

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