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第1015話

清水寺の近くのバス停に着き下車する。 ここから産寧坂を歩いて、清水寺で参拝して、それから二寧坂を通って八坂神社へ向かうルートを立ててきた。 本当はその前に着付けしてもらう予定だったんだけど…。 この様子だと着物散策は無しかな…。 「すっご!!めちゃくちゃ京都っぽい!!」 「舞妓さんだ!見ろよ、綾人!」 「綺麗です。写真を撮ってもいいと思いますか?」 「よし、ケロ太!舞妓さんに聞きに行くぞ!」 夏月以外の三人はテンション高い。 蛙石も笑顔が出てきてよかった。 産寧坂を歩き出そうとした時、女性に囲まれた蛇目に出会った。 「わ、主任じゃないですか。偶然。」 「蛇目……」 着物着てる。 つーか、似合うな……。 今日は眼鏡もしてねーし、そういえばこいつモテるんだった。 「お二人じゃないんですか?」 「まぁ色々あって。」 「じゃあ私もご一緒させて頂きたいな。主任と京都散策なんて夢みたいです。」 女性に断りを入れ、俺たちの集団に混ざってきた。 「えーっ!蛇目さん行っちゃうんですかぁ?」 「一緒に回りましょうよ〜!」 「すみません。主任優先なので。」 「えぇ……。」 言い訳に使われた挙句、よりにもよって蛇目まで…。 こんな大人数グループ、修学旅行生みたいだな…。 夏月の様子を見ると、怒ってる様子もない。 なんで…?逆に怖いんだけど。 ちゅんちゅんと蛙石も戻ってきて、蛇目の着物姿にキャアキャア言いながら産寧坂を登る。 左には無言の夏月、右にはご機嫌でよく喋る涼真と歩いていると、グイッと物陰に引っ張られた。 「わぁっ?!」 「なぁ綾人、あそこ……。あれ…?」 涼真は俺がいたはずの方向を見てキョロキョロしている。 口を塞がれて、声が出ない。 いや、出す必要はない。 だって俺を攫ったのは……。 「ぷはっ…。息できねーじゃん!夏月……?」 「これで二人きり。」 俺をみんなの輪の中から連れ出したのは、俺の大好きで大切なかけがえのない恋人。 やっと笑顔を見せてくれた。 そうだよな。 俺だって二人が良かった。 「みんな怒んねーかな?」 「怒らせときゃいいでしょ。元々二人で回る予定だったんだから。まぁいっぱい人増えたから、これで蛙石も一人ぼっちじゃなくなるし?」 「夏月……」 蛙石のために人集めてたのか。 やっぱり優しいなぁ、夏月は…。 「好きだよ、夏月。」 「俺も好き。大好き。」 「じゃあ今からは二人の時間だな。」 「はい♪着替えに行きましょう♡」 予約していた着付け屋さんに電話すると、時間変更を承諾してくれた。 優しそうな人でよかった。 俺と夏月は産寧坂を降りて、着付け屋さんに向かった。

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