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第1016話
「遅くなってすみません。時間変更の電話をしました城崎です。」
「おこしやす。こちらにどうぞ。」
店に着くと、さっそく店員さんに奥へ案内される。
着物がいっぱいだ。
「どれにされますか?」
「こんなにあると迷いますね…。」
「背の高いお兄さんやとこちらがお似合いになると思います。優しい顔のお兄さんはこちらなんてどうでしょうか?」
夏月には紺色の着物にグレーの羽織、俺にはベージュの着物に茶色の羽織を紹介してくれた。
角帯に柄が入っていて可愛い。
鏡で合わせてもらい、二人とも納得してそれを着付けてもらうことになった。
「すみません。彼の着付けは最初僕がするので、最後の手直しだけお願いしてもよろしいでしょうか?」
「あら、ええの?私らは助かるけど…。」
「はい。すみません、わがまま言って。」
更衣室に通され、俺は服を脱いだ。
全身に散りばめられた夏月の印。
たしかにこんなの見たら店員さん卒倒するよ…。
「夏にお祖母様に着付け教えてもらっててよかった。」
「んっ…、夏月……」
「ごめん。つい。」
脇腹をいやらしく撫でられ、ビクンッと身体が震える。
着付けされてるから仕方ないけど、こんな明るいところで裸を見られるのは恥ずかしい。
夏月と視線が合わないように逸らしていると、夏月は正面に立って俺の顔を両手で掴んだ。
「できたよ。」
「へ?」
「似合ってる。格好いいです。」
唇にチュッと触れるだけのキスをされる。
鏡には綺麗な着物に身を包んだ俺が映っていた。
部屋を出ると、店員さんが寄ってくる。
「あらあら。上手に着付けされてますね。あとこの辺だけ手直しさせてもらってもええかしら?」
「お願いします。」
帯あたりを少し手直ししただけで終わった。
ほぼ完璧じゃん。すごい。
「じゃあ俺も着付けてもらってきますね。」
「あ、うん。待ってる。」
夏月は店員さんと一緒に更衣室へ入ってしまった。
俺が着付けできれば、夏月の裸を他人に見せなくてもよかったのにな…。
これ、独占欲だよな……。
「お兄さんたちは旅行で来はったんですか?」
「え、あ、はい。社員旅行で…」
「社員旅行かぁ。こんなに自由なんやねぇ。」
もう一人店番をしている店員さんに声をかけられる。
よかった。少しは気が紛れるかも…。
「この辺でおすすめのお店とかありますか?」
「甘味処?」
「なんでも。体験できるようなお店とかでもいいですし。」
「美味しいところいっぱいあるよ。あそこも美味しかったなぁ、燻製が売りのイタリアン。」
「へぇ。そんなところもあるんですか?」
「燻製に合うお酒も出してくれるからオススメやね。予約できるか電話してみたら?」
俺は早速店に電話してみた。
さっきたまたまキャンセルが出たらしく、1時間後なら空いてるらしい。
「予約取れました。」
「よかったねぇ。そろそろお連れ様の着付けも終わる頃やと思うよ。」
少し待つと夏月が出てきた。
え…、わわわ…、嘘……?
「…………」
「はは。綾人さん、固まってる。」
夏月がイケメンすぎて俺は石化した。
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