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第1018話

危なかった……。 予約していた店の席につき、大きな息を吐いた。 あのままヒートアップして、最後までシそうになった。 襟下から足を忍ばされ、膝で股間を刺激され、勃ってしまったのを夏月の右手で処理されて…。 壁に手を付いて、夏月の息遣いも熱くなってきた辺りで、その周辺に団体の観光客が来て我を取り戻した。 時間確認したら予約の15分前で、タクシー拾って急いで店まで来たんだけど…。 夏月の機嫌が悪い…気が……。 「夏月、何食べる…?」 「どれも美味しそうですね。綾人さんの食べたいもので良いですよ。」 「おー……。あ…。お酒って飲んでもいい?」 「飲みたいなら飲んだらいいんじゃない?」 いつもなら選んでくれない? そんなことないっけ? いつもならお酒止めない? 今日は旅行だから特別とか…? もしかして、機嫌悪いのって夏月だけ不完全燃焼だからか?! はっきりとした理由は分からぬまま、とりあえず俺が注文して、先に飲み物が運ばれてくる。 「お通しとウイスキーでございます。こちらのバーボンウイスキーはアルコール度数は高めですが、まろやかで飲みやすいですよ。」 「ありがとうございます。いただきます。」 店員さんが去った後、グラスに手をかけると夏月に止められる。 む…。さっきまで飲んでいい感じだったのに…。 「飲みたいなら飲んだら?って言ったじゃん。」 「そんな度数高いって聞いてない。綾人さん酔うでしょ。」 「夏月がいるじゃん。」 「あのさぁ…。今から京都散策するんですよね?一緒に人力車乗ろうねって言ってたよね?そんな度数高いお酒飲んで乗れる?吐くよね?そもそも散策するにしてもしないにしても、着物返しに行かなきゃいけないし、夜は同室にあいつがいるんですよ?ちゃんと後のこと考えてますか?」 夏月は呆れたように俺に問いかけた。 たしかにそうかもしれない。 夏月が正しいのかもしれない。 でも…。 だからって、そんなに怒ることないじゃん…。 「綾人さん…?」 「バカ…。」 「ちょ…っ?!綾人さん!!」 堪えきれない涙が目尻から溢れて、俺はバレないように急いでトイレへ駆け込んだ。 夏月のことになると、なんでこんなに涙脆いんだろう? いい年した大人なのに恥ずかしい。 鍵を閉める直前に、ドアを開けられる。 夏月は頭を掻いてため息をついた。 「ごめん……。」 「…………」 「綾人さん以外のこと考えてないと、続きしたくなっちゃうから冷たく聞こえたかも。お酒も燻製のおつまみに合うものでって頼んだのちゃんと聞こえてた。度数高いの頼みたくて頼んだわけじゃないのも分かってる。ごめん。」 「じゃあなんで…」 「度数高いって言われてるのに飲もうとしたから、今までのこと反省してないんじゃないかって思って、つい強く言った。泣くと思わなくて…。」 「………それは俺もごめん。」 「旅行来てまで喧嘩したくないし、俺は綾人さんと目一杯京都楽しみたい。たくさん笑顔が見たい。だから許してください。」 頭を下げたまま、懇願するようにぎゅっと手を握られる。 俺にも悪いところはあった。 俺だって夏月と京都を楽しみたい。 「お酒…、勿体無いから夏月が飲んで。」 「……!はい!」 「あと、俺のお酒は夏月が選んで。」 「わかりました。」 涙を拭いて、席に戻る。 夏月は店員に俺の分の飲み物を注文した。 すぐに飲み物が届けられ、夏月と乾杯する。 「ん…!美味しい…。」 「燻製久々に食べました。美味しいですね。」 「うん!夏月の選んでくれたお酒も合う!」 「良かった。」 さっきの気まずさが嘘みたいに、美味しい料理のおかげもあって会話も弾みながら、楽しいランチタイムを過ごした。

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