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第1019話
腹八分目で店を出る。
「美味しかったですね。」
「うん!美味かった!」
燻製のイタリアンってどんなのかなって思ってたけど、燻製がキツすぎるわけでもなく、ちょうどいい感じで美味しかった。
それにお酒も少し飲んで気分が良い。
夏月に素直に甘えられそうな気がする。
腕を絡めると、夏月は肩をくっつけて、スマホで地図を見せてきた。
近っ…。
「ここからだと八坂神社が近いですね。参拝して、そのあと近くにある庚申堂 も参ってみますか?」
「庚申堂?」
「はい。若い子に人気みたいですよ。」
「また若い子。愛媛行った時もそんなこと言ってた。俺もう30過ぎだぞ?」
「映えスポットらしいですからね。覗きに行ってもいいでしょ?」
「まぁいいけどー。」
大通りに出て八坂神社を目指す。
平日にも関わらず人通りが多く、男同士で腕を組んでいるとかなり目立った。
離そうとすると、夏月は手をぎゅっと握った。
「手繋ぐくらい良くないですか?」
「いいのか…?」
「俺はね。綾人さんが嫌なら離していいよ。」
「………離したくない。」
俺も握り返すと、夏月は嬉しそうに笑う。
八坂神社に着いて、屋台に引き寄せられていると、「あとでまた美味しいの食べるよ?」と釘を刺され、泣く泣く諦めた。
厄除け祈願をし、境内を回って外に出る。
次に近いのは、さっき言ってた庚申堂ってやつだ。
「あ。あれだ。」
「可愛らしい感じだな…。」
「ほら、行こ!」
カラフルなお手玉がたくさん結ばれており、その前で写真を撮る若い女の子達。
うん。俺には既に場違い感あるんだけど。
「夏月、やっぱり…」
「これね、欲を一つ我慢することで願いが一つ叶うんですって。何書こうかな〜。」
夏月はさっそくお手玉を買ってきていて、一つ俺に手渡した。
欲を一つ我慢…。
夏月と四六時中一緒にいたいっていうのは欲望なのかな…。
もしこの気持ちが欲望なら、そんな子どもっぽい我儘は我慢して、将来のことを考えて、夏月と一生を添い遂げられますようにっていうのが願い。
欲も願いもどっちも夏月のことになっちゃうな。
「綾人さん、書いたー?」
「書いたよ。」
「見せてー!」
「嫌だ。」
「えー。ケチ。」
俺は夏月にバレないようにお手玉を括り付け、三猿に参拝して境内を出た。
ここから清水寺目指して歩いて、参拝して着物返して旅館に向かう感じかな。
夏月と手を繋いで歩いていると、夏月が「あ。」と指差した。
「ここから清水寺まで距離あるし、少しだけ人力車乗りませんか?」
「高いぞ?」
「いいでしょ。旅行だし!」
人力車を呼び止めて乗せてもらう。
うわ…、なんか景色が新鮮だ。
男二人、重いだろうなぁ…。すみません。
「男の方二人のお客さんは珍しいねぇ。」
「やっぱりそうなんですか。」
「芸能人みたいな色男二人も乗せるなんて、私も鼻が高いですよ!紅葉見に行くんですか?」
「はい。」
「めちゃくちゃ混んでるから怪我せーへんように気ぃつけてくださいね。」
人力車の運転手さんはとてもコミュ力が高くて、話しているとあっという間に清水寺の参道まで辿り着いた。
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