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第1020話

人力車を降りて、はじめの地点に戻ってきた。 当初の予定通り、お店を見ながら産寧坂を登っていく。 夏月はしっかりリサーチしてくれていたみたいで、俺の手を引いて案内してくれた。 「ここ湯豆腐専門店みたいですよ。ちょっと寒いですし、とうふまんじゅう食べてみませんか?」 「なにそれ。美味しそう。」 「買ってきます。」 夏月はまんじゅうと豆乳ラテを持って戻ってきた。 その後も湯葉のクリームコロッケ、みたらし団子、抹茶のバウムクーヘンに搾りたてのモンブラン。 ほっぺが落ちるくらい美味しい食べ歩きを楽しんで、清水寺の入り口に辿り着いた。 「さっきから思ってたんですけど、人ヤバくないですか。」 「さっき人力車のお兄さんも言ってたけど、紅葉シーズンだからな。俺らもこれ目的みたいなとこあったし…。」 「人がゴミのようだ…ってこのことを言うんですかね……。」 清水寺は人でごった返していた。 地元の人ももちろんいるだろうが、観光客も大勢。 これ、もしかしたらあいつらもまだ出れてなくて、中で会う可能性あるんじゃ……。 「綾人さん、俺の腕離さないでね。」 「お、おう…。」 「じゃあ行きましょう。」 夏月と腕を組みながら人混みに突入した。 こんなに混んでいれば、俺と夏月が腕を組んでたところで目立ちはしないだろう。 入場券を買うのにもかなり時間を要し、なんとか入場できたけど、境内の中も人で溢れかえっていた。 「本当はライトアップしてる時間に来たかったんですけど、無謀ですね…。」 「昼でこれじゃあな…。」 「ごめんね、綺麗な景色見せてあげたかったのに…。」 「ううん。昼でも十分綺麗だし大丈夫だよ。」 合法的に夏月に引っ付きながら順路を進む。 にしても、すげー押される…。 押し返すわけにもいかないし…。 「綾人さん、大丈夫?苦しい?」 「平気。夏月こそ大丈夫か?」 「俺は全然。そっち押されてるし、こっちおいで。」 夏月は身長が高いから俺が押されていたのも気づいてくれて、逆側に移動させてくれた。 こういうとこモテるんだろうな…。 抱かれる肩が熱い。 もうちょっと甘えたいな…。 「夏月……」 「…っ、綾人さん、そんな顔しないで…。」 「顔、変か…?」 「いや…、その……」 視線を逸らされたけど、夏月の耳が赤くなっていた。 こんな所で欲情してほしいって思ってる俺、ヤバいよな…。 はー…、なんで今日二人部屋じゃないんだろう…。 「夏月…、着物返したら行きたいとこある…。」 「行きたいとこ?」 「うん…。耳貸して。」 少し屈んでくれた夏月の耳元で行きたい場所を囁くと、夏月は顔を真っ赤にした。 ラブホテル…、行きたいって言っちゃった……。 だって……。 酔ってるせいか、すげー夏月に触りたい。 甘えたい。触ってほしい。 明日の夜まで待てできない…。 「本気…?」 「夏月は行きたくない…?」 「いや、行きたいし寧ろそこで泊まりませんか?」 「それは……、ダメだろ。」 「なんでだよ!!!」 ガチトーンでツッコミを入れる夏月に思わず笑いながら、少しずつ清水寺の舞台下へ続く列を進んだ。

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