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第1027話
旅館に到着し、フロントスタッフに遅くなったことと夕食に間に合わなかったことを謝罪し、部屋に案内してもらった。
風情のある中庭。
夕方とかならもっと綺麗に見えたかも。
「こちらでございます。」
「ありがとうございます。」
「本日はお疲れでしょうから、ごゆっくりおやすみください。」
部屋まで案内してもらい、頭を下げる。
中には蛇目たちがいるだろうし、一応ノックする。
「はーい……。あ、主任。」
「うわっ…!」
扉が開いて、中から浴衣を着た蛇目が現れる。
肌けた胸元。
髪も濡れてて、なんだか……。
「風呂上がりですか?なんかウザいんで、綾人さんの前から消えてください。」
「あはは。城崎くんは相変わらずですね。そちらこそ、ホテル帰りですか?」
「だったら何?」
「なっ…!!?」
「こんな破廉恥な人と付き合うなんて嫌になりませんか?主任、中へどうぞ。」
「ちょ…、城崎!」
「城崎くんは私を視界に入れたくないみたいなので、主任だけどうぞ。」
「おいこら。誰が綾人さんだけ渡すかよ。」
両腕を引っ張られ、綱引き状態。
夏月の方に行きたくて重心を移動すると、急に蛇目が手を離し、夏月の胸元に寄りかかってしまった。
「ごめん…!」
「大丈夫。つーか、やっぱり嫌です。この部屋。」
「誰かと交代してはどうですか?もちろん城崎くんだけ。」
「だから誰が綾人さんだけ渡すかっつってんだよ!!」
ぎゅーっと強く抱きしめられ、嬉しいような恥ずかしいような、とにかくドキドキする。
入り口で言い合いしていると、中の方から心配して蛙石がやってきた。
「何して……、あっ!城崎さん!望月主任!」
「あ…、あー……、ただいま……。」
「どこ行ってたんですか!今日はぐれちゃって、みんな心配してたんですよ?!そのくせ皆さん連絡取ろうともしないし、訳がわからなくて…!」
うん。それはあの場にいたみんな、俺らが付き合ってること知ってるから。
つーか、もはや夏月の作戦の内だったことも気づいてるんだろうな…。
「悪い。みんなと回れたか?」
「はい!皆さん優しくて、とても楽しかったです!誘ってくれてありがとうございました!」
「ならよかった。」
「ところで、どうしてお二人は抱きしめ合われてるんですか??」
「えっ!?あー!転けそうになって!支えてもらってただけ!」
忘れてた!
慌てて夏月から身体を離して言い訳すると、蛙石は「そうなんですね。」と納得して奥へ戻っていった。
危ねぇ…。
バレたらバレたで面倒が増えて嫌だ。
「は………くしゅんっ!」
「綾人さん、ここじゃ冷えるし、中入りましょうか。」
「ん。」
廊下は中庭と繋がっていたりで冷え込んでいるため、ぶるるっと身震いする。
夏月は俺に上着をかけ、あれだけ入りたくないと言ってた部屋でも躊躇なく入った。
多分これは俺に風邪を引かせないため。
本当優しいんだから…。
中へ進むと、居室にはもう既に布団が敷かれていた。
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