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第1028話

「おい。この布団の配置誰が決めた?」 「蛇目さんです!」 「へぇ〜。」 四つ横並びになった布団、開いてるのは両隅。 俺と夏月はすげぇ離れて寝るってこと? ……って、夏月、顔こわっ!! なんか顔面ヒクヒクしてるし…。 キレかけじゃん。 俺は張り詰めた空気だと認識したが、蛙石はもちろん気づいておらず、空気の読めないことを喋り出す。 「蛇目さん、望月主任のことがタイプらしいですよ!知ってました?僕びっくりしちゃって!」 「ふぅん。そうなんだ?」 「世間って偏見の目が凄いじゃないですか。同性愛者ってすごく生きづらいと思うんです。それでもゲイって公言してる蛇目さんって、応援したくなりませんか?」 「……………綾人さん、言っていい?」 「待て待て待て。」 ペラペラ感想を述べる蛙石に、夏月は貼り付けたような笑顔で俺に尋ねる。 俺としてはまだあんまり公にしたくないし、蛙石は口は固そうだけど、別にそこまで仲がいいわけでもない。 それに、こんな夏月と俺が付き合ってるなんてそんな大事なこと、べらべら話すものじゃないし…。 「悪いな、蛙石。」 「え?」 「俺、好きな人がいるからさ…。蛇目の気持ちには応えられないし、布団は離してもらおうかな…?」 「そんなっ!?」 「そうそう。そいつ、普通に手ぇ出すからな。蛙石も気をつけろよ。」 「えぇっ?!蛇目さん、そうなんですかっ?!」 「はは…。城崎くんは私のことがよっぽど嫌いなようですね…。」 蛙石の前だから全員取り繕ってる。 でも蛙石がいなかったら、殴り合いの喧嘩が始まっていた可能性だってあるよな…。 夏月は布団の順を、隅に俺、その隣に夏月、蛙石、蛇目になるように入れ替えていた。 「じゃあ俺、先輩と風呂入って来るから。」 「私もご一緒していいですか?」 「え?蛇目さん、さっき入ってなかったですか?」 「チッ…」 蛙石が単に思ったことを口にすると、蛇目が舌打ちをした。 いつも冷静で穏やかな感じなのに、舌打ちとかするんだ…。 夏月はベーッと舌を出して、俺の肩を抱いて部屋を出た。 冷たい夜風があたり、ぶるるっと身震いする。 早く湯船に浸かりたいけど…。 「温泉入っていいのか?キスマークだらけだけど、俺。」 「貸切風呂があるらしいので、そこにしましょ♡」 貸切風呂なんてあるんだ。 ちゃんと調べてなかったから知らなかった。 でもこの旅館は近くの温泉から汲み上げているらしく、美肌効果もあるって聞いてたから、ちょっと入りたかったんだよな。 「さっきあんだけシたんだから、もうダメだぞ?」 「はーい♪」 夏月は受付に伝えて貸切風呂の鍵をもらってきた。 よかった。今日は温泉入れないと思ってたから。 夏月と二人きりなら、気にしなくていいもんな。 「綾人さんご機嫌?」 「ん〜、そうか?そう見えるならそうかもなぁ。」 「俺も今から綾人さんとお風呂入れるからご機嫌です♪」 「言っとくけど、ダメだからな…!」 近くに同僚が居る場所で、そんなリスキーなことしたくない。 念押ししたけど、夏月は適当に受け流しながら、俺の腰を抱いて貸切風呂の鍵を開けた。 絶対手ぇ出してくんじゃん…。 腰に回された手が撫でるように動き、俺は誘われるままに貸切風呂へと足を踏み入れた。

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