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第1030話
はぁ〜。
お風呂気持ちよかった……。
体から湯気が上がるほど内側から温まり、脱衣所にあったレンタル用の浴衣を着る。
帯を閉めようとすると、夏月が後ろから抱きついてきて、首筋に顔を埋めた。
「どうした?気分悪い?」
「いや……。綾人さんの浴衣姿、あいつに見られたくないだけ…。」
「ヤキモチ?」
「そうですけど…。悪い?」
「ううん、嬉しい。……つーか、このまま着ちゃ、夏月が付けたキスマーク丸見えだから無理だな。」
鎖骨周辺にもびっしりついたキスマーク。
事情を知らない人からしたら何事だって思われるだろう。
一度浴衣を脱ぎ、中にハイネックのインナーを着る。
「見栄え悪いけど、これなら隠せるな。」
「はいっ♪」
「お。機嫌良くなった?」
「浴衣って首筋とか鎖骨見えるからエロいじゃないですか。そこ隠してくれるならちょっとだけ安心した。」
「おまえのせいだけどな…。」
「付けててよかった♪」
ご機嫌になった夏月と一緒に、温泉を後にして部屋に戻る。
女性社員にすれ違うたび、夏月は二度見されていた。
そりゃあ社内の王子様が浴衣で歩いてたら見ちゃうよな…。
「綾人さん…?」
「……え?あ、何?」
「柳津さんがちゅんちゅんと卓球場にいるらしいんですけど、行きますか?」
「卓球?」
「はい。俺もあの部屋に戻るよりは、事情を知ってるあの二人といる方が気が楽ですし。綾人さんが嫌じゃなければ。」
蛇目のこと嫌いすぎるのが言葉からも伝わってくる。
まぁ、結局ほとんど涼真たちとは回れなかったし、明日も二人で観光予定だし、せっかくの社員旅行の思い出だから、涼真とちゅんちゅんも1ページとして刻んでおきたいしな…。
「うん。行こう。」
「やった♪」
行き先を変更して卓球場へ向かう。
卓球場に着くと、涼真とちゅんちゅん以外誰もいなかった。
「あ!望月さん!城崎さん!!」
「綾人、城崎、来てくれたのか。」
既に卓球を始めていた二人は、少し浴衣が着崩れていた。
誰もいないのをいいことに、球を拾いにいかず床に散らばっている。
「人気ないな、ここ。」
「時間が時間だからな。風呂入った後にちゅんちゅんが卓球しましょ〜って言い出して。」
「だって温泉といえば風呂上がりに浴衣で卓球でしょ?!」
「そうかぁ?」
時間はもう0時前。
なんで卓球場の使用時間取り締まらないんだよ、とツッコミそうになる。
客室から離れてるからいいのか…?
「ということで!2対2でやりましょう!チームどうしますか?」
「俺は綾人さん以外とペアになるなら利敵行為しますけど。」
「キモ…。じゃあちゅんちゅん、おまえ城崎と組め。俺は綾人と組むから。」
「はぁ〜?!無理です!無理ですって!」
「俺はいいよ。」
「綾人さん?!」
初戦のペアは俺と涼真vs夏月とちゅんちゅんになった。
大丈夫かなぁ…。
でも、なんだか久々のスポーツに燃えてきた…かも。
「よし!いきます!」
「来いよ。」
やる気満々のちゅんちゅんにそう言うと、何故かちゅんちゅんの隣に立っていた夏月が崩れ落ちた。
なんで??
慌てて駆け寄って安否を確認する。
「夏月?!大丈夫か?」
「綾人さん……、俺にもさっきの言って……?」
「は??」
「あんなオラオラな綾人さんレアすぎ…。好き…♡」
こいつバカだ……。
困惑する俺の後ろで、涼真とちゅんちゅんはゲラゲラ笑っていた。
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