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第1047話
夏月が浴室を出てから、しばらくはぼーっとしていた。
賢者タイムというやつ…。
そのあと髪も体も洗って、湯船に浸かってから上がった。
上気した頬は、風呂上がりだからだろうか。
それとも夏月に触れられたから…?
いずれにせよ、このまま出たら疑われそうだな。
そう思って、少し時間を潰してからリビングに戻った。
「兄さん!長風呂でしたね!」
「あ、あぁ…。」
「お風呂も上がったし、寝ましょう!兄さんは明日は休みですよね?」
「そうだよ。大翔は勉強?」
「はい!最近は毎日勉強です!」
楽しそうに話す大翔に、つい笑みが溢れる。
俺はこんなにも可愛い弟がいるのに、なんてふしだらなことばかり考えてしまったんだ。
反省しないとな…。
大翔に手を引かれて寝室に行こうとすると、後ろから伸びてきた手が大翔のパーカーのフードを引っ張った。
「ぐぇっ…!何すんだよ!?」
「寝室は俺と綾人さんが使うんだよ。てめーはソファで寝ろ。」
「はぁっ?!客人にソファで寝ろって言ってんの?!」
「そもそもお呼びじゃねーんだよ。勝手に転がり込んだこと覚えてねぇの?そんな記憶力じゃ受験も心配だな。」
「なっ…!?ていうか、風邪ひいたらどうするんだよ!受験生だぞ?!布団くらい出せ!!」
「二人で暮らす家だから客人用の布団なんかねーよ。嫌ならさっさと家帰んな、ガキ。」
「〜〜〜っ!!兄さんっ!こいつ嫌い!!」
大翔は半泣きで俺に抱きつく。
可哀想に……。
夏月もこれは言い過ぎなんじゃ……。
「俺がソファで寝るよ。二人はベッドで寝な…?」
「「それだけは絶対嫌!!!」」
「仲良いじゃん…。」
びっくりするほどハモっていて、思わず苦笑する。
でも、じゃあどうするんだ…?
「狭いけど三人で寝るか?」
「はい!賛成です!」
「は?ちょっと待てコラ。」
「いいじゃないですか!もちろん兄さんが真ん中で!」
「いいわけねーだろ!」
また喧嘩が始まり、結局真ん中は夏月になった。
俺を抱きしめて、大翔に背を向けて寝るらしい。
大翔は全然納得していなかったけど、家主である夏月にこれ以上の反発はできなかったようだ。
夏月が風呂に入っている間に、俺と大翔は先に寝室へ移動した。
布団に入ると、さっきの位置決めを無視して、大翔は俺の腕にギュッと抱きついてくる。
「大翔。」
「なんですか?」
「夏月のこと嫌い?」
「……………。」
大翔は黙った。
嫌いと即答しないってことは、本当は嫌いなわけではないんだとホッとする。
「今日助けてもらったんだろ?」
「うん……。あいつ、『おまえのことは憎たらしいけど、綾人さんの大切な弟だから。』って…。兄さんの言ってた通り、ちゃんと僕のことも大事にしてくれてるのかなって……。」
「へへ。いい奴だろ?」
「ちょっとだけ!!どうせ僕を助けて兄さんに褒めてもらおうとかそんなつもりだったに決まってる!!」
「違うよ。夏月はちゃんと大翔のこと大事に思ってる。」
「そう…かな……。」
「そうだよ。俺が保証する。」
大翔は不貞腐れた顔をしながら俺に寄り添って、そのまま寝てしまった。
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