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第1051話
待ち合わせのカフェで、倉科さんは珈琲を飲みながら俺たちを待っていた。
あまりにも絵になっているものだから、声をかける女性が後を絶たない様子。
俺たちを視界に入れて、ひらひらと手を振った。
声をかけていた女性は、夏月という新たなイケメンを目にして、身を引くどころか目をギラギラさせて獣のようだ。
「夏月、目移りすんなよ?」
「誰に言ってるんですか。俺が綾人さんにしか興味ないの知ってるでしょ?」
夏月は倉科さんの正面に座り、俺を隣に座らせた。
声をかけてくる女性はまるで空気のように扱われ、数分ほどして諦めて席へ戻っていった。
「で?俺と綾人さんのデートの邪魔してまで何のご用ですか。」
「ははっ。そうカリカリすんなって。夜ヤればいいじゃねぇか。」
「今綾人さんの弟さんが泊まりに来てて、家じゃできないんですよ。」
「それはご愁傷様。まぁおまえもヤリたい盛りのガキじゃねえんだし、数日くらい我慢しろよ。」
「他人事だからそんなこと言えるんです。」
冷静なように見えて、怒りを含んだ声。
いつも声聞いてる俺には分かる。
落ち着いてと伝えたくて夏月の手に触れると、指を絡めて握られた。
「もうクリスマスまで一ヶ月だろ。ダブルデートの話詰めときたくてな。」
「今日じゃなくていいでしょ。」
「俺は忙しいんだよ。年末年始休むために今働き詰め。えら〜い人のオペを前倒しでやれだの、休むならあれやれこれやれって。俺の身は一つしかねーっつの。」
医者って大変なんだな…。
当たり前なんだけど、実際聞くとやっぱり忙しいんだと現実を突きつけられる。
圭くんも寂しいだろうな…。
「そんなお忙し〜いお医者様の貴重な休みを俺たちなんかに使っていいんですか。」
「嫌味がすげぇな…。今朝まで抱き潰したから、あいつ今寝てんだよ。」
「本っっっ当に自分本位な予定の組み方したんですね。帰っていいですか?」
「落ち着けって。……分かった。じゃあクリスマスのホテルも譲ってやるから。」
「えっ?!ダブルデートの二日目夜ってことですか?!」
「おー。都内の夜景一望できる、クリスマスディナー付スイートルーム。予約すんの大変だったんだぞ?」
待て待て待て。
譲ってやるってことは、倉科さんと圭くんが泊まるつもりで予約したってことだよな?
ダメだろそれは!
「もらえないです、そんなの!」
「いいよ。こいつ納得しねーだろ。」
「じゃあ出します。いくらでした?」
「はは。はいどうぞって出せる額じゃねぇだろ。」
「いいじゃないですか、綾人さん。お言葉に甘えて頂戴しましょう。今日俺と綾人さんの時間潰したお詫びですもんね。」
「そういうことにしといてくれ。で、イブの話なんだけどさ…。」
夏月も機嫌を少し取り戻し、倉科さんとイブのダブルデートの話を詰めていく。
明らかにお詫びの値段ではないけど、夏月は倉科さんのことなんだと思ってんだ?
社長とかならまだしも、医者だぞ…。
夏月には悪いけど、ホテルの件は後で丁重にお断りしよう。
そこまでしてダブルデートの段取りを決めておきたいなんて、倉科さん本当に圭くんのこと大好きなんだな…。
「うん。じゃあこんな感じで。当日よろしく。」
「わかりました。」
「俺ちょっとトイレ行ってきます。綾人さん、待っててね♡」
夏月がトイレに行ったのを見計らって、倉科さんに声をかける。
「やっぱりホテル2泊も出してもらうなんてできません。25日は遠慮しておきます。」
「いいですよ。家で過ごすんで。」
「でも予約大変だったって…。俺たちの方こそ家で過ごせるんで、本当に気にしないでください。」
「いいんですか?でも夏月は泊まる気満々みたいですけど。」
「俺から伝えておきます。」
「本当にいいんですか?じゃあ今日の詫び、また考え直しときます。あいつ望月さんとの時間潰すと本当うるさいから。俺も人のこと言えないですけど。」
「いや、ここのお代払ってもらってるんで!十分です!まだ15時だし、今からデートできるんで大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えさせてもらいますね。」
無事クリスマスのホテルの件は解決。
倉科さんの負担を最小限に抑えることに成功した。
「綾人さーんお待たせ♡」
「ん。行くか。」
倉科さんと別れ、夏月と俺はとりあえず駅に向かって歩き始めた。
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