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第1055話

家に着くと、玄関まで大翔が出迎えに来た。 俺たちが帰ってくるまで夕食を待っていたらしく、夏月が急いで作ってくれた。 夕食のあとは、俺たちが外出中に行き詰まった問題の質問タイム。 夏月も嫌な顔ひとつせずに大翔に教えてくれていて、心がほっこりとした。 「綾人さん、お風呂先入る?」 「いいのか?」 「はい。あと三問くらい聞きたいところあるらしいんで、綾人さんは温かい湯船浸かってきてください。」 「サンキュ。」 お言葉に甘えて一番風呂を頂くことにした。 体を流してから湯船に浸かる。 最近空気が冷たくなってきたから、お風呂すげー気持ちいい…。 お湯に浸かって自分の体を見ると、あちこちにキスマークが残されていた。 あいつ、こんなとこにまで…。 そう思うけど、独占欲の表れみたいなこの行為が嬉しくもある。 「俺ももっと付けときゃよかった…。」 太腿の付け根にくっきりと付けられたキスマーク。 ここならバレないし、ずっと消えずに残ればいいのに。 薄れていくと、いつもなんだか切なくなる。 風呂から上がり体を拭いて、急いで服を着る。 もし大翔に見られたら、また大変なことになりそうだ。 部屋着を着てリビングに戻ると、夏月が顔を上げる。 「おかえりなさい。」 「進んだ?」 「はい。今ちょうど終わったところです。」 大翔は夏月に教えてもらった箇所を必死に復習している。 夏月に先に入るように促して、俺は夏月と交代して椅子に座った。 「順調?」 「はい。…………前も思ったんですけど、城崎さんって頭良いですよね。全部教えてくれたし…。」 「頼りになるだろ?俺も色々頼りっぱなしでさ。」 「兄さんは今幸せ…?」 突然投げかけられた質問に、思わずきょとんとしてしまった。 前までは夏月のことを突っぱねるような言い方ばかりだったのに、大翔の中で少しずつ受け入れようとしてくれているのがなんとなく伝わる。 「すっげー幸せだよ。人生の絶頂かもな。」 「ふぅん。そっか…。」 「大翔もそんなふうに思える相手が見つかると良いな。」 「…………うん。」 大翔が変わっている。 あまり会わない俺が見ても分かるくらいに、良い方向に進んでると思う。 夏月と俺の関係を見て変わってくれたとしたら、なんかすげー嬉しい。 大翔の相手は、大翔の気難しいところも全部受け入れて、全力で甘やかしてくれる人がいいな…。 「今は好きな人いないのか?」 「いないよ。いたことない。」 「大学ではできるといいな。」 「どうかな。勉強で忙しいよ。」 「勉強を言い訳にしようとしてるだろ。」 「何で兄さんはそんなに僕に相手作らせようとしてるの。」 「弟と恋バナしてみたいんだもん。」 「…………」 大翔は返事せずにまた勉強に取り掛かり始めた。 ポジティブに変わったかと思ったら、まだ恋愛トークは無視したりして。 一度でもいいから経験して欲しい。 心から本気になれる恋を。 「綾人さーん、お待たせ♡」 「夏月、おかえり。」 「大翔くんも冷める前に入りな。」 「はい。今日はありがとうございました。」 「おー。」 ちゃんとお礼も言えるようになり感心していたら、常識的に考えて当たり前なことを褒める必要はないと夏月に怒られた。 大翔が風呂から上がってから、昨日夏月が決めた配置で眠りについた。

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