1060 / 1069

第1060話

翌朝、俺はすっかり元気になったので出勤できるが、夏月はまだ熱が下がりきらずに休みを取ることになった。 「俺も行く…。」 「駄目。何か今日やらなきゃいけないことあるなら、俺が引き継ぐから教えて。」 「…………わかりました。じゃあメモしてくださいね。」 夏月に言われたことをメモしていく。 次々と言われるが、夏月じゃないとできないだろうなっていうのもいくつか…。 つか、多くね…? 「夏月、これとこれはおまえじゃないと…」 「じゃあ出勤していいですか?!」 「あー…、わかった。さてはこれ、今日じゃなくてもいいやつだろ?」 「えっ」 「熱あるんだからちゃんと休め。明日やればいいだろ。」 「でも…」 「ちゃんと休まないと治るもんも治らないだろ。」 図星だったらしく、夏月は口を尖らせて拗ねてしまった。 熱出てるのに仕事行くなんて社畜じゃねぇか。 夏月の場合は、俺と離れたくないってのが理由だと思うけど。 ………我ながら愛されてる自覚ありすぎる。 「じゃあチューして。濃いの。」 「はいはい。でももうすぐ家出るからな。」 「早く。」 夏月の顎を指で持ち上げ、唇を重ねて舌を入れる。 俺からリードするようなキスは久々かもしれない。 いつも夏月にリードされてるからな…。 舌を絡めたり、歯列をなぞったりすると、時々夏月が気持ちよさそうに息をする。 ゆっくりと唇を離すと、まだ物足りないって顔をしていて笑いそうになった。 「続きは帰ってからな。」 「えー…。行っちゃうんですか…?」 「もう行かないと遅刻する。」 「………いってらっしゃい。」 不満そうにそう言って俯いた夏月を抱き寄せて、首筋に触れるだけのキスをする。 夏月はパッと顔を上げた。 「愛してる。明日までに治して、週末好きなだけ抱いて。」 「!!!」 「いってきます。」 「いってらっしゃい!!」 先程までとは打って変わって、花の咲いたような笑顔で見送ってくれる可愛い恋人。 なんて現金なやつ。 と思いながら、俺も週末を期待してしまっている。 満員電車を乗り切り、冷たい風を切って会社まで歩く。 もう冬に差し掛かってる。 12月目前だもんな…。 会社に辿り着く直前に、後ろから肩を叩かれる。 振り返ると、涼真がいた。 「おっはよ!あれ?城崎は?」 「おはよう。夏月は…」 「あ、そっか!最近別々に出退勤してんだったっけ?悪い悪い。」 「それもあるけど、今日は風邪で休み。」 「へぇ〜。あいつ鍛えてそうなのに、割と体弱いな。」 「俺のせいだし…。」 「綾人も風邪だったのか?」 「ん。昨日寝込んでた。」 「ドンマイ。」 どうして風邪が移ったなんて、そんな野暮なこと聞くほど涼真は馬鹿じゃない。 察してくれて助かる。 ………恥ずかしいけど。 「おはよーございますっ!あれっ?城崎さんは??」 「ちゅんちゅんおはよ。城崎は風邪で休みだってさ。」 「えぇ〜!望月さんは大丈夫なんすか??」 「ん。元は俺が原因だし。」 しまった。 涼真の時と同じ要領で話してしまった。 相手はあのちゅんちゅんなのに…。 「へ??なんでっすか??同じ家に住んでても対策してれば移んなくないすか?」 「………」 「あっ!えっ?………あっ!もしかして城崎さんと望月さん、ちゅ……、むぐっ!」 やっぱり余計なことデカい声で喋りやがる。 ちゅんちゅんの口を手で塞いで、引きずって人気のないところに連行した。

ともだちにシェアしよう!