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第1061話

ちゅんちゅんに説教をして仕事が始まり、何とか午前中は夏月に頼まれていたことにも手をつけることができた。 あいつの業務量、改めて感心する。 「綾人〜、昼行こうぜ。」 「あー、うん。あとこれだけキリのいいとこまでやってから行く。」 「何それ?あー…、城崎の案件?」 「うん。これは今日までにやっときたかったんだって。」 涼真は俺のパソコンを覗きこんで、感心したように声を上げる。 わかる。すげー見やすいんだよ、資料が。 ある程度何すればいいか分かってるとはいえ、誰が見てもわかりやすいと思う。 「あいつすげーよな。噂によると色んなとこから声かかってるらしいぜ。」 「えっ?」 「部長が手放す気ないから、本人にはまだ声かかってなさそうだけどな。あいつ自身も綾人から離れる気ねーだろうから、もし声かけられても断りそうだけど。」 「そう…なんだ……。」 夏月が別部署へ……。 キャリアアップなら背中を押してやるべきなんだろうけど、今までいつも見える場所にいたから、もし部署が変わったら寂しいんだろうな…。 当たり前のように近くにいた夏月がそばに居ないなんて…。 「まぁ今そんなこと考えても仕方ねぇし、腹減ってたら余計ネガティブになるだろ!早く飯行こう!な?」 「うん。わかった。」 「あいつ、今頃家で綾人綾人って泣いてんじゃね?」 「まさか。泣かないだろ。」 「わかんねぇよ?あいつの綾人好きは異常だ、異常。依存症だよ。」 「まぁ…。愛されてる自覚はある…。」 「ぶはっ!」 涼真がいい感じに話を逸らしてくれたから、あんまり考えずに済みそうだ。 一人の時間に考えて落ち込みそうだけど…。 職場は誰かいるし、帰ったら夏月がいるし、きっと大丈夫だよな…。 「あ。夏月から昼休憩に電話欲しいって連絡来てた。涼真、悪い。先に行ってて。」 「りょーかい。待ってるからちゃんと来いよ。」 「おう。」 涼真が行ってから10分ほどでキリのいいところまで仕事を終え、空いた会議室で夏月に電話をかけた。 『綾人さん!遅かったですね。休憩今からですか?』 「うん。夏月に頼まれてたやつ、終わりそうだよ。」 『はっ…!俺のせい?!ごめんなさい!後回しでいいのに!』 「大丈夫。ちゃんと定時までに終わらせてダッシュで帰る。夏月は体調平気?」 『はい。もう熱も下がって調子も良いので、さっきまで大翔くんに勉強教えてました。明日は絶対出勤できます!』 「よかった。無理しないようにな。」 『綾人さんこそ。昼ごはんまだですよね?食べてきていいですよ。俺との通話なんて後回しにして、先にご飯食べればよかったのに。』 「恋人のこと、そんな蔑ろな扱いしねーよ。」 10分ほど話して通話を切った。 夏月の声聞くと元気出るな…。 早く帰りたい。 夏月に会いたい。 あいつも同じこと思ってくれてるといいな…。 食堂に行くと、涼真が俺に気づいて手を振った。 「思ったより早かったな。」 「夏月が昼ごはん食べてこいって。」 「はは。言いそう。」 「今日仕事、定時で終わりそうになかったら手伝って欲しいんだけど…。」 「早く会いてーの?」 「うん…。」 「ふっ…。前まで付き合ってた時は普通に残業してたのに。人って変わるもんだなー。」 「うるせぇ。」 そう言われて、たしかに前は「私より仕事が好きなんだね。」って振られたような…と苦い過去を思い出した。 別に仕事を優先してたつもりじゃなかったんだけど。 でも今は仕事より恋人を優先してしまいそうになるくらい夏月のことが好きなんだなぁと思うと、そんな自分をもっと好きになれそうな気がした。

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