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第1066話

「誰かいますかー?」 「あぁ、すみません。残業中で。もう少しで終わります。」 「まだ残られてたんですね。お疲れ様です。22時にはここも閉めますので、それまでにご帰宅をお願い致します。」 「はい。わかりました。」 バクンッ、バクンッ…。 かつてないほどの音で心臓が動く。 警備員だよな? すげー普通に会話してるけど…。 「ぁっ…う♡♡」 一生懸命息を潜めていたのに、夏月がいきなり中で暴発した。 思わず声が漏れて、両手で口を塞ぐ。 「今何か?」 「いいえ。何でもありません。」 「そうですか。では、外は寒いのでお気をつけてお帰りくださいね。」 「はい。お疲れ様です。」 カツカツ…と靴の音が遠のいて行く。 俺は上を向いて夏月を睨む。 「ふっ……あはは!怖い怖い!」 「おまえなぁ〜!!!」 「だって、先輩今すげー興奮したでしょ?」 「は、はぁっ?!興奮なんてしてない!!めちゃくちゃ焦ったし!!つーかおまえ、あの状況で普通イクか?!」 「だって先輩のナカ、めちゃくちゃ締まったんだもん♡逆にイカない奴いないでしょ。」 「変態!!!」 「こっちのセリフ。」 怒鳴っていると、繋がったまま体を上に向けられて唇を塞がれる。 舌を入れられて歯列をなぞられ、ゾクゾクっと身体が震えた。 「狡い……。」 「怒ってても泣いてても、何してても可愛いよ。」 「バレてない…よな?」 「うん。話の流れで分かるでしょ。」 「………怖かった。」 「ごめんね。」 唇や頬、鼻先、額、耳。 夏月は愛しむように何度もキスを落として、ハンカチで軽くペニスの先を拭いてから俺の服を整えた。 「やっぱりスーツって興奮するね。」 「俺は人生で一番ヒヤヒヤした。」 「いーや。あれは興奮してたね。綾人さんってこういうリスキーなの意外と好きでしょ?」 「名前はもういいのかよ…。」 「あれはプレイなんで♡」 夏月も身なりを整え、俺を椅子に座らせて、床に飛び散った汚れを掃除し始めた。 あー、もう…。 まだ心臓バクバクしてる…。 「次からどういう顔して出勤すればいいんだよ。」 「何食わぬ顔で出勤すればいいじゃないですか。俺と綾人さん以外誰も知らないし。」 「気持ちの問題だっつの。」 「思い出しちゃうんですか?綾人さんのえっち♡」 「ばっ…?!思い出さない方が無理だろ、バカ!!」 「いや〜、机の下に隠れた綾人さんが、周りにバレないようにフェラしてくれるの夢だったんですよね〜。まぁ二人きりだったんでバレるも何もないんですけど♡」 「本っっ当に変態だな、おまえは!!」 顔が熱い。 もう冬間近なのに、スーツの下は冷や汗でぐっしょりだ。 何なら体は冷えてきた。 「くしゅんっ!」 「あーあ、風邪引いちゃいますよ。」 「誰のせいで…っ!」 「大翔くんが出て行ったらめちゃくちゃに抱き潰すんだから、今熱出されたら困ります♡」 夏月は自分のコートを俺に掛けて、鞄を持った。 「ほら。帰りますよ!」 腕を引かれて、何だかその強引さに改めてキュンとしてしまう俺は乙女なんだろうか。 夏月にリードされるまま、暗い路地、人の少ない電車を越えて家へと辿り着いた。

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