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24話 醒める

 身体が重い。まるで岩に押し潰されているように痛む。遠くで自分を呼ぶ声が響いているのだけ感じる。  遮那王は声を出そうと藻掻いたが、声一つ出ず、指一本動かす事が叶わなかった。瞼は閉じたまま。暗闇の中、自分の呼吸さえ感じ取る事ができない。  死。身体中に纏わり付いて来る。暗い暗い、闇の底へと引きずり込まれるかのように、死が自分へと入り込んで来る。  最後に見たのは何であったか。思い出す事が出来ない。ただ、悲壮と慟哭。脳裏に染み付いて取れないのは、それだけだった。  ふいに、暗闇にはっきりと声が届いた。いつだったか、聞いた覚えがある気がする。知っている声。遠い昔、記憶もない程遥か前。自分は知っていた。。  闇の底から、身体が浮かび上がる。寒くてたまらなかったのが、暖かな何かに触れる。 「やあ、目覚めたかい? お姫様」  翠色の綺麗な瞳が、覗き込んで来た。  昔、清盛に見せてもらった。宋からの貿易で手に入れた翠玉(すいぎょく)。美しく綺麗な(みどり)。 「…清盛様…あの時の…宝石…」  何とか絞り出せた声でぼそりと呟くと、宝石の瞳が細められ、耳心地の良い声がくすくすと聞こえてきた。 「ようやく起きたと思ったら、まだ寝言を言っている。まあ、ずっと意識不明だったのだし、まだ頭が覚醒していないのも無理からぬ話か。僧正坊殿、姫がお目覚めだよ」  ぼんやりと何も考えられない頭で、音だけがはっきりと聞こえていた。すぐに、板の間を大きな音を鳴らしながら足音がかけてくる。 「沙那王…!」  覚醒しない沙那王の頭と視覚は、自らの師の見た事もないような程に疲れきった顔を、それでもしっかりと認識した。喉が酷く渇いて、干上がった魚のように口を動かすと、突然視界が黒く遮られ、次の瞬間ぬるい湯が喉に流れ込んで来た。 そうしてやっと、口移しで白湯を飲まされたと気づいた沙那王は目の前にある顔を今度ははっきりと瞳に映した。 「…君…は…」 「はじめまして姫。お前の弟だよ」  鏡越しのようでそうではない。まだ夢の中を漂っているかのような感覚に、沙那王は冷えた指先が意思とは関係なくぴくりと動いた。    

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