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3話 契約
見て回れば面白そうな街だったが、あまり見て回る気にはならなかった。唯一行ったのは蜘蛛がまつられている塚だった。三か所、それを線でつなぐと村の中心を囲むように並んでいた。
その塚にかかわると良くないことが起きる。そういわれ人が近付くことはなく塚も危険とみなされ柵で囲まれている。近くでそれを見ることは出来なかった。
友達もいない。前の学校でいじめを受けたせいで上手く話せなくなり、人と上手く関われなくなった。仲良くは無いがいじめられるわけでもない。ただ学校で日々が過ぎていく。そんな中でも興味を持っていた蜘蛛の存在がありそれが蔵之介の心のスキマを埋めてくれていた。
いくつか通り過ぎた十字路の先を曲がり、坂を上っていく。
ついた先はそう遠くはない、役所だった。
車を降り入ると、受付をして奥へ通される。人気はない通路をきょろきょろ見回しながら歩く。
母親はどこか嬉しそうな足取りで、軽やかにヒールを鳴らしツカツカと歩いていく。
一番奥の部屋につくと、扉が開いた。
「お待ちしておりました」
少し暗めの部屋。ブラインドも全て閉まり外とは遮断したような静かな部屋だった。
「いえ、遅くなってしまったようですみません」
母は所長と名乗る男によそ行きの笑顔で会釈する。家族には向けられたことのない笑顔だ。
「それで息子さんと旦那様の方は大丈夫だったでしょうか?」
「ええ、もちろん。同意しております」
なんの話をしているのだろう?なんの同意もした覚えはない。
「そうですか。それはよかった。蔵之介君。本当にすまないね、君にこんなことを頼むことになって。私たちも煮え湯を飲ませている気分で本当に申し訳ないと思っている。しかし、誰かがしないといけない事なんだ。そして、君が選ばれた。ある意味光栄なことなんだよ」
役所の人が言うと、書類と封筒を持ってきた。
「こちらにご記入をお願いいたします。あとお渡しした書類へのご記入は済んでおりますでしょうか?」
「ええ、もちろん」
と母は持ってきた書類を取り出す。
大人のやり取り。蔵之介は黙ってみているしか出来なかった。
書類にも何が書かれているのか分からない。
書類へのサインもほとんど母が済ませ、最後に蔵之介に記入する様促す。
「なんのサインなの?」
蔵之介が聞くと睨まれ
「あんたは分かんないんだからサインすればいいの!」
そう強く言われしぶしぶ名前を記入した。
すぐに母に書類を奪われる。
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