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4話
「これで大丈夫でしょうか?」
「ええ、これで契約は完了です。こちらが謝礼となります」
先ほどの封筒を差し出し、母は中身を確認し口元を緩ませた。
「ええ、確かに。手続きはこれで完了でしょうか?」
「はい、最後に何かあればお二人の時間をおつくりしますが」
「いえ、結構です。あとはよろしくお願いします」
そういうと母親は笑顔で立ち上がった。蔵之介も立ち上がろうとすると、母に頭を撫でられた。
頭を撫でられるなんて何年ぶりだろうか?
ドキッとしてしまい、撫で続ける手を静止することも出来ず座り直す。
「良い子でいるのよ」
それだけ言って部屋を出ていった。
どういう事?最後の二人の時間?契約?謝礼?
混乱して立ち上がることも出来なかった。
――煮え湯を飲ませている気分
先ほどの言葉を思い返す。
裏切り?酷いことが起きる。絶望感が残像のように脳裏によぎった。
「あの、僕は何を……?」
震える声で所長に聞く。
「いやー、君が引き受けてくれて本当に良かったよ。詳しく聞いてるか分からないが、ここにはしきたりがあってね。100年に一度生贄を出さないといけないんだ。
この街には蜘蛛の守り神が居てね。蜘蛛の塚があるのは知っているだろ?そこには蜘蛛の神様がいるんだ。神様に生贄を差し出さないとこの町は滅んでしまうんだよ。毎回この選別に時間がかかっていてね。なんせ、子供を一人差し出して貰うことになる。さらに言えばこんなことがバレれば村一帯からクレームが殺到し、生贄を出すことなんて出来なくなる。
声をかけるのもかなり慎重にしないといけなくてね。
でも今回はすぐに決まってよかった。本当に助かった。君が快く引き受けてくれた事に感謝するよ。ありがとう」
所長は蔵之介の手を取り、何度も頭を下げた。よそ行きの笑顔、それは見てすぐにわかった。
蜘蛛の塚。それは蔵之介が唯一足を運んだ場所。関われば良くない事が起きると言われている場所。そんな場所に行ってしまったから?
「い、嫌です……」
蔵之介は、ぽつりとつぶやいた。
「は?」
所長は眉を寄せた。
「嫌です、生贄なんて。僕はまだ死にたくない、母さんだって、父さんだってそんな事、許すはずない」
「しかしね、現にこの同意書にサインをしている。君もさっきサインしただろう?契約は成立しているんだ」
所長は書類をバサバサと振って見せた。
「そんなの知らなかった!無効だよ!」
「君の保護者が同意してるんだ。君もサインをした。それで成立なんだ」
所長は首を横に振りにやりと笑った。さっき何の説明もされず記入した書類を思い出す。そんなものに母がサインをさせるはずない。
とにかく本人に確認をしたい。
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